五妃伝 ~玉座に咲く愛~
「もし、私の気持ちに応えてくれるなら――」

玄曜は、そっと言葉を継いだ。

「……明日の朝、宮殿の正門に来てほしい。」

「宮殿……?」

悠蘭の眉がわずかに動いた。

「どうして、そんな場所に?」

「君を、正式に迎えたいんだ。」

言葉の意味を測りかねたように、悠蘭は彼をじっと見つめた。

「運命なんて、占いの世界の話でしょ。」

その瞳には、どこか怯えと諦めのような光が宿っていた。

だが、玄曜は笑った。

「その占いの世界の住人である君が、運命を信じないのか?」

「私は……占いなんて、ただの商売でやってるだけ。信じてなんか……」

悠蘭の声は、どこか掠れていた。

けれど、玄曜は彼女から目を離さなかった。

「――私は、信じている。」

静かに、だが迷いのない声で。

その言葉が、悠蘭の胸を締め付けた。

「明日、正門だ。」

彼はそれだけを言い残し、庭園の小道をゆっくりと背にした。
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