五妃伝 ~玉座に咲く愛~
朝靄がまだ残る宮廷の正門前。

普段、一般人が足を踏み入れることなどないはずの場所に、一人の娘が立っていた。

淡い布衣に身を包み、胸元を押さえて深く息を吐く。

――本当に、来てしまった。

迷いはなかったと言えば嘘になる。

だが彼の瞳に映った真剣さを、どうしても忘れられなかった。

やがて、重々しく門が開かれた。

中から現れたのは、金と蒼を織り交ぜた礼服をまとい、まっすぐに悠蘭を見つめる男。

そう、それは――

「……あなたを、信じたからやってきたの。」

悠蘭は震える声で告げた。

その言葉を聞いた玄曜は、静かに頷き、彼女の前に歩み寄る。

「ようこそ、天蒼国の宮へ。」

その瞬間、彼の背後に控えていた近衛たちが一斉にひれ伏した。

悠蘭は目を見開く。

「え……?」

「朕の名は、蒼 玄曜。この国の第九代皇帝だ。」

言葉をなくす悠蘭の前で、玄曜は微笑んだ。

それは今までで最も穏やかで、そして力強い笑みだった。
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