五妃伝 ~玉座に咲く愛~

第2部 四賢妃の選定

その夜、宮殿の空気は静かに祝福の色に染まっていた。
灯された無数の燭が、回廊の影を揺らす。

――ひとりの市井の娘が、皇帝の妃として迎えられる夜。

静かな部屋で、悠蘭は座っていた。

そこへ、あの楊家の主――皇后・瑶華の父が現れる。

「この度は……おめでとうございます。」

意外にも穏やかな声だった。

悠蘭はそっと頭を下げる。

「……あの、どうして今まで、あの方が皇帝だと教えてくれなかったのですか?」

悠蘭の問いに、楊家は目を細めて笑った。

「伝えていたら、あなたは断っていたでしょう。」

「……私は、身分なんて何もないのですよ。」

思わず漏れた心の叫び。

それは、この場所に居る資格がないという、自責にも近い想い。

だが楊家は、ゆっくりと前に出て言った。
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