五妃伝 ~玉座に咲く愛~
悠蘭はそっと声を漏らす。

「……あなた方は、私が一般人だと知っているのですか?」

少し離れた場所で布を手にしていた侍女のひとり――名は営養(えいよう)といった――が、ふわりと微笑んだ。

「はい、存じております。ですが、皇帝が選ばれた方なら、身分は問いません。」

その言葉に、悠蘭の胸がわずかに温かくなる。

だが、営養はすぐに続けた。

「ただ――」

彼女は悠蘭の背に手を添えながら、低い声で囁いた。

「……皇帝の“愛”を求めるのであれば、“跡継ぎ”をお産みになることです。」

湯の中に沈めた膝の上で、悠蘭の手がぎゅっと握られる。

「それが、この後宮で生きる“妃”の道なのです。」

優しい微笑みのまま、営養の言葉は重く響いた。

悠蘭は目を閉じた。

――自分は、本当にこの場所で生きていけるのだろうか。

< 33 / 82 >

この作品をシェア

pagetop