五妃伝 ~玉座に咲く愛~
酒の余韻より、心に染み入る言葉の重みが胸を揺らす。

「……私は、ご令嬢でも、名家の者でもないのですよ。」

その言葉に、玄曜は柔らかく微笑んだ。

「それでも、朕が選んだ唯一の“賢妃”だ。」

その瞳は、民を見つめる皇帝のものではなかった。

――ただ、一人の男が、一人の女性を愛しているというまなざしだった。


夜更け、静寂に包まれた後宮の一室。

月明かりが障子越しに差し込み、淡い銀の光が部屋を照らしていた。

寝着に身を包んだ悠蘭は、心臓の音を抑えきれないまま、そっと足を進める。

扉の向こう、玄曜がすでに待っていた。

彼もまた寝衣に着替え、寝床の縁に腰を下ろしていた。

「……不束者ですが、末永く……」

小さく震える声でそう告げた悠蘭の言葉が終わる前に、玄曜は立ち上がり、そっと彼女を抱き寄せた。

「こんなにも心が震えたことはない……」
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