五妃伝 ~玉座に咲く愛~
「……もう、いないの?」

昨夜、熱く抱き合った記憶が残る寝台で、悠蘭はひとり、胸の奥を締めつけられるような寂しさを感じた。

そこへ、侍女の営養が静かに現れた。

「皇帝は、すでに御政務に入られております。お身体の具合はいかがですか?」

「ええ……ありがとう。」

悠蘭はそっと身を起こし、微かに乱れた寝着を整える。

「悠蘭様。しばらくいたしますと、正式に“賢妃”としての宣下が下されます。」

その言葉に、悠蘭の胸が波打つ。

もう、自分は後戻りできない――それが、実感として迫ってくる。

「……本日は、皇后・瑶華様よりお言葉を賜ります。」

営養の口調は穏やかだが、その奥にある緊張を悠蘭は感じ取った。

正妃である瑶華。玄曜の“正妻”にあたる人物――名門の娘で、後宮の頂点に立つ存在。

悠蘭は、しっかりと頷いた。

「分かりました。」

湯殿の支度が始まり、悠蘭の一日が幕を開ける。

“皇帝の妃”として、彼女が歩む最初の朝だった。
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