五妃伝 ~玉座に咲く愛~
その日、紫煙は後宮ではなく、訓練場の隅にいた。

軽装の衣に身を包み、兵たちの鍛錬に目を光らせながら、時に自ら木剣を取り、構えを正していた。

「もっと腰を落とせ。敵に押されるぞ!」

毅然とした声に、兵士たちはたじろぎつつも頭を下げた。

――彼女は妃でありながら、軍の者から一目置かれていた。

そこへ、静かに歩み寄る影があった。

「紫煙。」

低く響く声。振り返るまでもなく、彼女は気配でそれを察知した。

「陛下。」

紫煙は深く頭を下げ、いつも通り礼を尽くした。ただ、それ以上の親しみはない。

「……新しい妃を迎えたと、耳にしました。」

「……ああ。賢妃として、悠蘭を迎えた。」

紫煙は頷き、再び兵士たちの訓練に視線を向ける。そこにあるのは、淡々とした無関心だった。

「四賢妃を、遂に揃えたのですね。」

「李紫煙。」
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