五妃伝 ~玉座に咲く愛~
「顔を上げよ。」

静かな命令に、香風はゆるりと顔を上げた。

その瞬間、広間に流れる空気が変わった。

――透き通るような白い肌、緩やかに波打つ黒髪、そして何より、真っ直ぐに玄曜を射抜くような漆黒の瞳。その美しさと気高さに、玉座の主は一瞬、言葉を失った。

玄曜は、ただ見惚れていた。

「美しいでしょう。」

玄曜の傍らで李将軍が低く囁く。

「我が軍が勝ち取り、我が手でお連れしました。妃にしていいのですよ。」

「……妃……か。」

玄曜の口から、無意識にその言葉が漏れる。

「我が国は勝ったのです。美しい女を愛でるのは、当然の権利です。」

玄曜は横目で李将軍を見た。

確かに、戦で勝った国は、敗れた国から多くを得る。

土地、金、民、そして時に「女」までも。
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