五妃伝 ~玉座に咲く愛~
その夜。

広く静かな寝所に、香風はひとり座っていた。

絹の衣に身を包みながらも、その肩にはかすかに震えが見える。

玄曜が寝所に入ってきた。

「香風。」

静かな呼びかけに、香風はゆるりと顔を上げた。

だがその瞳は、まるで感情を失ったようにどこか遠くを見ていた。

玄曜はゆっくりと彼女に近づき、頬にそっと触れた。

「そんなに怯えなくてもいい。」

「……もう慣れています。」

香風のその言葉に、玄曜の指が止まる。

「体は……震えている。」

香風は静かに布団の上に横たわり、寝着に手をかけると、ためらいなくそれを脱いだ。

月明かりに照らされた彼女の肌は、白磁のように透き通っている。

「……いい女だな。」

玄曜は、息をのんだ。

その透き通る美しさ。

自らを差し出す決意の強さ。

それでもなお、震える肩のいじらしさ――

すべてが、玄曜の心を捉えて離さなかった。
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