五妃伝 ~玉座に咲く愛~
「……ご自由に。」

そして今夜も、香風は自ら寝着の帯に手をかけた。

昨夜、それは男を誘うような色気に満ちていた。

だが今、そこにあるのはただの義務と諦念――哀れさすら感じさせた。

玄曜は手を伸ばして、その手を止めた。

「そうではない。朕が欲しいのは、君の体ではない。君自身だ。」

香風の手がぴたりと止まり、瞳がわずかに揺れた。

「……」

「韓王の妹姫だったな。」

その一言に、香風は小さく息を呑んだ。

玄曜はゆっくりと彼女の前に膝をつき、目を合わせた。

「戦に敗れ、国を追われ、男たちの所有物として渡り歩いて……今もまだ、心を閉ざしたままなのか?」

香風は答えなかった。

だが、長い沈黙の後、そっと一言だけ口にした。

「……忘れるには、あまりに鮮明で、冷たすぎる記憶です。」

玄曜の瞳が細められた。

「ならば、忘れられるように、そばにいよう。」

その言葉に、香風の瞳がほんのわずかに潤んだ。
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