義姉の身代わりで変態侯爵に嫁ぐはずが囚われました〜助けた人は騎士団長で溺愛してきます〜
◇ ◆ ◇

ルーナはとある部屋に連れて来られていた。


部屋には先程抱き抱えてくれて騎士とルーナのみ。向き合って座っている。

黒髪のスラリとした体躯の騎士だった。

初めてお姫様抱っこされた時のことを思いだすと恥ずかしくて体中が熱くなる。
鍛えられた胸板の感触が、生々しい。

男の人の温もり……。ふと、抱きしめられたお爺さんのことが頭をよぎる。

もしかしたら、私は、胸板に弱いのかも……。不埒な思考を追い払うようにふるふると首を振る。


「どこか、具合がわるいのか?」


低音ボイスで問いかけられて、ルーナはビクっと驚く。

「すまない、おどろかせてしまったかな。それで? どうして連れて来られたか分かるかい?」


怖がらせないように丁寧な口調ではあるけれど、明らかにこれは尋問だ。

もしかして、お父さま、遂に何かの犯罪を……。


「申し訳ありません……分かりません……」


「責めているのではないんだ。だめだ、どうしても気にいらない。とりあえず脱いでもらえないか」


「え? 身体検査ということでしょうか?何も隠したりしていません」


「いや、隠しているのを疑っているのではなくてだな……その、ドレスは、いささか、胸元が……」


黄金色の瞳を真っ直ぐに向けられて、ルーナは胸元を隠すように手で覆う。

確かにお姉さまに比べると、ガリガリに痩せているので、ドレスはダボダボだ。

「ルーナのドレスを用意しているので、着替えて欲しいと思ったんだ」


「え?どうして私の名前を……?」

目の前の騎士をまじまじと見つめたルーナ。


「この瞳を見て私が誰か分からない?」

「あ!ひょっとしてお爺さんの息子さんですか?」



「違う!」


騎士は勢いよく立ち上がりルーナの座っている椅子の横に跪くづく。


「私が、君の言うお爺さんだよ、正確にはお爺さんじゃなくて、私の名は、ウイリアム・カーサス。ここの騎士団長を勤めている。改めて、あの時はありがとう、ルーナ」


ウィリアムはルーナの手の甲に口づける。

「ウィリアム・カーサスさ…ま…ええっ!!」

ルーナは驚きのあまり二度見していた。
この国、カーサス王国の名をもつということは王族を意味するからだ。

「お、お、お、王子さまだったのですか?お、お爺さんが……も、も、も、申し訳ありません! わ、わ、私、とんでもないことを……」


王族の身体に勝手に触れ、食事まで口に運んでしまったのだ。

許可なく触れ、それも末端貴族のルーナに許される行為ではない。

だから、捕まったのね……。

「怖がらないで、ルーナ。今ルーナが考えていることは何も心配いらないから。ほら、髪の色もこんなに元通りになって、声も戻って、ルーナは命の恩人だよ。手首に巻いてくれた髪はルーナでしょ?このおかげで助かったんだ」


「私の髪の毛で?」

「あぁ、ルーナ、君は古の魔女の血を引いている。」


「古の魔女……?でも、私には魔力がなくて……」


「古の魔女はね、媒介を必要とするんだ。私達魔力のあるものは魔法を使える。古の魔女は自身の血や髪など媒介を通してしか魔法を使えないんだ。だから魔力は判定されない。もう、途絶えてしまったと思っていたのだが、口外せずに暮らしていたんだね。血筋だからといって、必ず古の魔女が産まれる訳ではないから。
あの日は、ちょっと無茶をしすぎてしまって、魔力が枯渇してしまったんだ……。魔力が枯渇すると、髪から色素が抜けて、声もでなくなり、いずれは死ぬ。
もう、ダメかと思った時に、父から宝物庫の中に行くように言われてね。命の危機に直面した時にのみ入れる場所があるんだ。そしたら、光に吸い込まれたかと思ったら、どこかに倒れていて、君に助けられたんだ。古の魔女のみ、枯渇した魔力を回復させることができるんだ。ルーナ、本当にありがとう。とにかく、君の力はしられる訳にはいかない。私に守らせてほしい。命の恩人のルーナを、今度は私が一生をかけて守るから」


ルーナは情報過多で混乱しており、よく分からないままこくんと頷く。

「ありがとう、受け入れてくれるんだね」


「んん!!」

ルーナの唇に柔らかな感触が遅いかかる。

「ここには誰も来ないから心配いらない」

またもお姫様抱きにされてルーナは隣室の寝台へと寝かされる。

「ルーナ、今日は、私の選んだドレスを着てもらおうと思っていたんだけど、あいにく女性が誰もいなくてね、だから、全部私に任せてもらえるね?(女性騎士は逃亡していたステラ嬢に回したし、その他は休暇を与えたけどね)」


「え? 待ってください、まだ、早くないですか?」

「かわいそうに、痛いだろう……鎖はすぐに外したが、この跡は治癒を何度か行わないと消えないな。心の傷は……(ハワード伯爵と夫人も捕らえたよ。ルーナの耳には入れないけど)私が全部癒すから…」


ウィリアムはゆっくりと、柔らかな唇で口づけていく。
「ウィリアムさま……」

「ウィルだ、ルーナ。ウィルと呼んで?」

「ウィル……」


「ルーナ、もう、何も心配いらないからね」

こくんとルーナは頷くと、まっすぐにウィリアムを見つめる。

潤んだアメジストの瞳には、熱を帯びた眼差しを向けるウィリアムが映っていた。

ルーナは全てを受け入れるように、ウィリアムの背中へと手を回し身を委ねた。




◇ ◆ ◇

ハワード伯爵家は察しの通り、そんな家があったのかと忘れ去られるくらいに、きれいさっぱりと消え去った。


ルーナは母の実家の籍に入り、その後、ウィリアムと結婚した。祖父母はハワード伯爵よりルーナと会うことを禁止されていたので、ルーナの境遇を知り、悲しみ、救ってくれたことに大喜びだった。

盛大な結婚式を挙げ、ウィリアムはルーナを言葉通り一生守り寵愛した。


四人の子供が生まれてからも、その溺愛ぶりは加速する一方だった。


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