彼が甘いエールをくれたから
「さっき、ルミナの担当者から電話があって……」

 眉根を寄せる彼の表情を見ていると、嫌な予感しかしてこない。このあとなにを告げられるのだろう。

「納期を一瞬間前倒ししてほしいと依頼があった」
「え!」
「ルミナ側の事情で、新商品のプレスリリースを早めることになったそうだ」

 状況は理解できたけれど、衝撃を受けたせいで言葉がすぐに出てこない。頭が真っ白だ。

「急なスケジュール変更はむずかしいと交渉はしてみたんだけどな。うちの部長は、対応できるならやろうっていう意見だ」
 
 せっかく受注できた新規のクライアントの案件だ。今後のことを考えて、揉めたくないのもわかる。

「了解。ペース上げるしかないよね。スケジュールを立て直さなきゃ……」
「忽那、大丈夫か?」

 そう尋ねたくなるほど、私の顔に悲愴感が漂っていたのだろう。
 体調不良の加山さんの仕事と自分の分を合わせ、必死にやれば納期には間に合うと目途が立ったばかりだった。
 それを一週間前倒しだなんて……。

「がんばる。仕方ないもん」

 なんとか対応できると部長が判断しているのだ。部下としてはそれに従うまで。

「やるしかないよ」
「いやでも……せめて加山さんの担当分を、」
「大丈夫。私が責任を持ってやり遂げるから」

 忙殺されるのは私だけではない。チームのメンバー全員、自分の仕事があるのだ。
 だからこそ余計に、手伝ってほしいとは言えない。

 ――――ひとりでがんばるしかないんだ。
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