彼が甘いエールをくれたから
「けど、納期が早まったせいで、ほかのメンバーも手一杯だ。それに忽那は……」

 聞いていられなくなって、そっと立ち去ろうとしたときだった。
 ちょうどそばにあったゴミ箱に身体が触れて、ガタンという物音を立ててしまう。
 このタイミングでは出ていけない。私はあわてて後ろを向き、足早にオフィスへ戻ろうとした。

「忽那!」

 だけど筧くんが駆け寄ってきて、呼び止められてしまった。どうやら先ほどの物音で気づかれたみたいだ。

「俺たちの話、聞いてたんだろう?」
「ごめん。盗み聞きするつもりはなかったの」
「違う。責めてるわけじゃない」

 声が震える。異変を悟られたくなくて、無意識に背を向けようとしたときだった。
 彼が私の両肩に手を置き、真正面から顔を覗き込んできた。

「こっちを見て」

 視線を下げていたら、逃げるなと言わんばかりに力強く瞳を射貫かれた。

「忽那は責任感が強いし、人に頼るのが苦手だよな? さっき、多治見にそれを伝えようとしていた」
「ごめんね。私が不甲斐ないせいで迷惑をかけて」
「そうじゃなくて……」

 筧くんが右手を伸ばし、私の頭にやさしく触れた。
 男らしく大きな手の平から温もりが伝わってきて、一気に顔に熱が集まってくる。
 こんなふうになでられたら、都合のいいように誤解してしまいそうだ。
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