彼が甘いエールをくれたから
「もっと頼っていいんだ」
「え?」
「俺もいるし、みんなもいる。ひとりだけでがんばろうとするなよ」

 やわらかい笑みをたたえた彼が私の手を引き、オフィスの方向へ歩きだす。
 デスクまで戻ってくると、筧くんは近くにあった椅子を移動させ、私の隣に座って体勢を整えた。

「進捗状況、見せて?」

 コクリとうなずいてパソコンのファイルを開けると、彼はデスクに肘をつきながらモニターを食い入るように見た。

「あの、忽那さん……」

 モニターの向こう側から声をかけてきたのは、多治見くんだった。
 しっかりと眉根が寄っている彼の表情を見て、今からなにを言われるのだろうと緊張が走る。

「さっきは、すみませんでした」

 多治見くんが小さく頭を下げて謝ってきた。
 てっきり苦言を呈されるものだと思って構えていたので、ビックリして固まってしまう。

「あれじゃ、まるで陰口ですよね。そういうの嫌なんで、はっきり言わせてもらいます」
「え……うん」
「ひとりで仕事を抱えすぎです。俺たちには任せられませんか? そんなに信用できないですか?」

 ひとつひとつしっかりと紡がれた言葉に、彼の心からの気持ちが伝わってくる。
 私に対しての怒りというより、悔しさをこらえているように感じた。
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