彼が甘いエールをくれたから
「筧くん、……チョコ、ありがとう」

 残業を終えたあと、同じタイミングで退勤した筧くんにエレベーター前で声をかけた。

「ああ、あれね。夕方になると糖分が切れてくるころだから」
「本当においしいチョコだったし、気持ちがうれしかった。筧くんはやさしいね」
「忽那には特別やさしいのかも……って、俺はなにを言ってるんだろうな」

 ふいっと背けた彼の顔が、どことなく赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか。
 意味深なことを言って照れられると、私も恥ずかしくなってしまう。

「あのね、加山さんが明日から復帰するの」
「そうか。よかったな」

 先ほど加山さんから、体調が回復したので明日出社するという旨のメッセージが来た。
 症状が悪化せず、自宅療養で済んだのは不幸中の幸いかもしれない。彼女が元気になって本当によかった。

 翌朝、早い時間に出社した私は、仕事を進めつつソワソワしながら加山さんを待った。

「おはようございます!」

 始業時間の少し前、一週間ぶりに姿を見せた加山さんの明るい声が、静かなオフィスに響いた。

「長いあいだ、お休みしてしまってすみませんでした!」

 彼女のあいさつで出勤してきたことに気づいた同僚たちが、仕事の手を止めて集まってくる。
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