彼が甘いエールをくれたから
「あのころとはメンバーも違うし、請け負った仕事を楽しむくらいの気持ちでいこう」

 その後輩社員は他部署へ異動になったので、私とは顔を合わせることがなくなった。
 そのため、以前よりも仕事がやりやすくなったのはたしかだ。

「俺もいるし、みんなもいるから」

 筧くんのキラキラとした瞳と、意欲に満ちた表情を見ていると、元気をもらえた気がした。
 彼はいつだってそう。誰に対してもこんなふうに活力を与えてくれる。

「筧くん、加山さん、ありがとう」
「じゃあ、あとでミーティングな」

 にこりと笑って筧くんと加山さんが去っていく。
 彼の言葉をいったん受け止めてみたものの、そもそも私は人に甘えたり頼ったりすることが苦手だ。
 サブリーダーとなると、自分の仕事だけではなく、ほかのメンバーや全体の進捗状況を見ていく必要がある。

「はぁ……」

 ぎゅっと握った手のひらに汗が滲む。それはきっと、これから背負うものの重さと自分へのエールの表れなのだろう。
 肩に力が入りすぎるのはよくないとわかっている。
 しかし、あれ以来〝自分ひとりでしっかりしなければ〟と自立心が強くなったのも事実だ。

 楽しんで仕事ができたらどんなにいいだろうか。
 失敗したらクライアントからクレームが来て、次から受注をもらえなくなる。……会社に迷惑をかける。
 どうしてもその気持ちのほうが先行してしまって、デスクで頭を抱えそうになった。
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