彼が甘いエールをくれたから
「大丈夫ですよ。スケジュールも余裕があるし、筧さんがぬかりなく全部チェックしてくれてますから」
「そうだね」

 加山さんがそっと顔を近づけてきて耳打ちをする。

「筧さんって、知友里さんには特にやさしいですよね。ふたり……なにかあるんですか?」

 その質問を受けた途端、なぜか動揺して目が泳いだ。
 しかし誤解を招かないよう、ブンブンと大げさに首を横に振る。

「あるわけないじゃない。ただの同期だよ」

 チクリと胸が痛んだ。内に秘めた彼への憧れの気持ちを、自分自身で否定したから。
 輪の中心にいてキラキラと輝く筧くんと地味な私では、絶対に釣り合わないと最初からわかっている。
 〝ただの同期〟……私たちの関係は、それ以上でも以下でもない。

「筧さんはイケメンだし、仕事もできますもんね。超のつく優良物件だと思うけどなぁ」

 やはり彼は相当モテるのだろう。おそらく誰に聞いても加山さんと同じ意見になるはず。
 筧くんのほうへ目をやると、同じプロジェクトのメンバーである後輩の多治見(たじみ)くんになにか説明をしていた。
 仕事に没頭する彼の姿を見て、自分もがんばらなきゃと気合が入る。サブリーダーとしての責務を全うしたい。

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