彼が甘いエールをくれたから
『知友里さんは悪くないですよ。カンピロバクターとかいう細菌性腸炎だそうです』
「大丈夫なの?」
『腹痛がひどかったんですけど、点滴をしてもらったら少し落ち着きました』

 入院しなければいけないようなひどい状態になっていなくて本当によかった。
 とにかく加山さんには早く元気になってもらいたい。

『熱が出てるので、会社はお休みさせてください』
「もちろんだよ。部長と筧くんに伝えておく。ゆっくり休んでね」
『プロジェクトの仕事があるのに、こんなことになって本当にすみません』

 また謝らせてしまった。そう思うと心が痛い。
 加山さんが細かく進めてくれていた仕事を、私がしっかり引き継がなくては。
 私は彼女より先輩で、プロジェクトのサブリーダーなのだから。

「気にしないでね。あとは私がやる。大丈夫、任せて! お大事にね」

 電話を切ったあと、すぐさま筧くんに事情を話した。
 すると話を聞いた彼が、深刻そうな表情で眉根を寄せた。

「夜中に救急外来へ駆け込むくらいだから、相当つらかったんだろうな。しっかりと休んでもらおう」

 筧くんの言うとおりだ。
 彼女のことだから、すぐにでも出勤してきそうだけれど、絶対に無理をさせるわけにはいかない。
 その後、ふたりで部長のもとへ行き、加山さんの病状としばらく欠勤する旨を伝えた。

「忽那、加山さんが担当していたルミナの仕事のことだけど……」

 報告を終えて戻ってくると、筧くんがタブレットを片手に私のデスクまでやってきた。
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