彼が甘いエールをくれたから
「どうかした? 大丈夫?」

 なにか行き詰まったのかと尋ねてみると、加山さんはみぞおちの辺りを押さえながら顔をしかめた。

「昨日からちょっと……胃の調子が悪いんです。キリキリ痛むし気持ち悪くなってきちゃって……」
「病院へ行ったほうがいいよ」
「さっき胃薬を飲んだから、じきに効いてくると思います」

 愛想笑いをする加山さんの背中に手を当てて、そっとさすった。
 これはきっと、精神的なものからくる胃痛だと思う。彼女は私が考えるよりもはるかに無理をしていたのかもしれない。

「……ごめんね」
「え、どうして知友里さんが謝るんですか。大丈夫ですよ。すぐに治ります」
「絶対に無理しないでね」
「……わかりました。今日は定時ピッタリに帰らせてもらいます」

 私を心配させまいとして、加山さんがおどけるように微笑んで再び仕事を再開させた。

 〝大丈夫〟という言葉を、どうして鵜呑みにしてしまったのだろう。
 翌日の朝、彼女から夜中に救急外来を受診したと電話が来たのだ。

『知友里さん、すみません』
「謝るのは私だよ。具合悪そうにしていたのに……ごめん」

 あのとき、すぐに病院へ行くよう強く進言するべきだった。
 おそらく、時間が経つにつれて症状が悪化したから、夜中に救急外来へ駆け込んだのだと思う。
 彼女の我慢強さに甘えてしまった私の失態だ。
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