これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜
希望の持てない人生を送っていたサラにとって、アベルに恋に落ちるのは仕方のないことだった。

蔑んでくる他の方達と違って
アベルは優しかった。
特別に私に優しかったわけではないわね。ただ、普通に接してくれていただけ。
そのことが、どれだけ嬉しかったか想像もつかないでしょうけれど。
まるで、自分もただの一人の女性になったみたいで、心が救われたの。
ずっとずっと一人耐えてきた私にとって、初めて感じた温もりだった。

そう、単純にあなたに恋してしまうほどに。

誰に会う訳でもないから、身だしなみなんてどうでもよくなっていたのに。

ここから出ることもできないのに、国からの贈り物として沢山のドレスや宝石がとどくから開封せずに山積みにして放置していた。

でも、あなたに綺麗だと思われたくて、書物も送ってもらって、流行のドレスや化粧の仕方も一人で学んだ。

あなたの特別な人になりたい一心で。

あなたは色々と話してくれたわね。
外の世界の話は何もかもが新鮮だった。
あなたは優しいから……。
その優しさにつけ込んでごめんなさい。

でも、どうしても、最期に、貴方の温もりを身体に刻みつけてほしいの。


王命が言い渡された時、あなたは愕然としたでしょうね……。

本当にごめんなさい。
でも、私は、今、天にも昇る気持ちだわ。

大好きなあなたに抱かれるのだから。
最高の思い出と共に、この世を去ることができるから。


王命を断ることなんてできないものね……。

あなたが今、どんな顔をしているのか見るのが怖い。

でも、目を負傷しているとはいえもしものことがあってはいけないから、目隠しは外さない。

「アベル様……これは王命です……どうか、
触れるのも嫌かもしれませんが……最期の願いなんです、抱いてください……」


サラは緊張から震えながら言葉を口にする。
抱いてくれなかったらどうしよう……
あまりにも自分勝手な願いだから、罪悪感に押し潰されそうになる。
瞳からは涙が溢れ、目隠しにうっすらと沁みを残している。

「アベル様……?」


アベルから返答がないことでサラはますます不安になっていた。何も見えないのでどこを向いていいのかも分からない。



「サラ……」

突然ガバリと力強く抱きしめられて、急かされるようにサラの唇は奪われる。

キスされているのだと理解した時には柔らかなベッドの上に寝かされていた。


「アベル様、抱いてくださるのですか……?」



「サラ、これは王命です、言葉は不要です」


アベルはサラのドレスを激しく脱ぎ取る。
いつもの優しいアベルが、荒々しい息遣いで迫ってくることにサラは混乱していた。

「アベル様、怒っているのですか?」

「サラ、半分正解ですが、怒っていません……目隠しはこのままで……見えないと不安ですよね。大丈夫です」


「ひゃぁ!」


見えないサラを気遣うように、言葉で説明しつつ、アベルはサラの手を取る。

見る見る顔中が薔薇色に染まって押し黙るサラ。

アベルはそんなサラを空色の瞳で切なげに見下ろす。

「サラ……」

金色の髪をかきあげて、アベルは
ずっと抑えていた感情の制御が出来ずにいた。

アベルもまた複雑な心境だった。

初めてあなたを見た時、天使かと思った。
透き通るような肌、綺麗な顔立ち。
目もとが隠されていても、その美しさは滲みでていた。

騎士として活躍していた時とは違い、怪我をしてからは周囲の私へ対する扱いも変わっていた。
自分で言うのもなんだが、以前は街を歩けば令嬢達に取り囲まれて、身動きできなかったくらいだ。告白されたことも一度や二度じゃない。
今とは雲泥の差だ。女性への免疫がなかったわけではない。だから美しいあなたに対しても緊張することもなく、接することができていたと思う。

あなたといると、不思議と素直になれた。
交際したことがあるのか聞いてきたことがあったよね。

あなたに気にかけてもらえたのが嬉しくて、
あわよくば私がいい男だと勘違いしてくれたらと、
少しでもあなたの気になる存在になれたらと、
敢えて否定しなかった。

本当は知識だけで経験なんてない。
それなのに…… 

こんな事があっていいのか。
あなたに触れ、私を受け入れてもらう。
そんな夢のようなことが。

私はこんな邪な考えを持った人間だったのか。所詮は男か。
自分が恥ずかしい。
辛い運命を受け入れて、死を覚悟する心まで綺麗なあなたとは大違いだ。

軽蔑されないだろうか。

サラ……愛しています…あなた一人で死なせません。私も……

















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