すべての花へそして君へ①

「ありがと。それが聞けるだけでお腹がいっぱいだよ」

「あ。おかわりいります?」

「いやー。もう惚気は勘弁!」

「ははっ」


 目の前でばってんを作るトーマさんがおかしくて、声を上げて笑っていると。


「……いい顔で笑うようになったね」

「え?」


 ぽろっと小さくそう呟いたトーマさんに、前からちゃんと笑えていなかったのだろうかと心配になった。けど、どうやらそういうことではないらしい。


「前よりも、もっといい笑顔。幸せなんだって気持ちが、すごくよくわかるよ」

「……はい。とっても幸せですっ」


 決して間違いではない。今、わたしの中に溢れている幸せ。でもそれは、今席を外している彼だけじゃなくて、わたしに関わってくれた人たちみんなのおかげだから……。
 溢れた笑顔につられて、トーマさんも、史上最強の悪魔なんか全く感じさせない、とても無邪気な顔で笑った。


「でも、悔しいな~。その笑顔は俺がさせてあげる予定だったのに」

「え? ……へへ。すみません?」


 にやけが止まらないわたしのほっぺたを、つんつん突いてトーマさんが遊び始める。


「もうっ。……トーマさん? ダメです」

「えー? だってまだ彼女じゃないんでしょ?」

「……どうして知ってるんですか」

「俺が知らないわけないでしょう?」


 そんなの当たり前でしょ? と、言いたげに笑っている。……やっぱり恐ろしいわ、この人。


「ちょっとさ、悔しいから聞いてくれる?」

「え? な、何をですか」

「身構えないでもいいよ。葵ちゃんの返事はもう十分わかってるし、俺の気持ちだって言ってるし」

「え。い、いつ……」

「言ったでしょ? 諦めないって」

(ひ、ヒナタくんの言ったとおりだった……)


 トーマさんには、きちんと今の自分の想いを言えたというのに、今は別の意味で怖い。
 アワアワと、顔を引き攣らせながら頭の中で慌てていると、目の前のトーマさんはふっとやさしく笑った。


「葵ちゃんからのメッセージ。実は俺、わかってたんだ」

「え? メッセージ?」

「赤と黒と緑のカード」


 ……あ。そうか。トーマさんはヒナタくんからもらってたんだっけ。


「でも葵ちゃん、全然俺の電話取ってくれなかったでしょ?」

「まあ、取れるような状況ではなかったので」

「それももちろん、今はわかってる。だからちょっと反則だったけど、信人さんに連絡を取ったんだ」

「え? そうだったんですか?」


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