すべての花へそして君へ①
そんな俺の心情を忖度したのか、葵は苦笑いしながら、少しだけ話をしてくれた。
翼のことを思えば、あまり言わない方がいいと思いつつ、俺には話しても大丈夫だと、判断してくれたんだろう。葵は、相手の名前は伏せていた。
「……そうか」
伏せていたとしても、それが誰なのか。俺らの中には、それがわからない奴は多分いないだろうな。
(あいつの気持ちがわからないこともないけど)
「向こうもね? 苦しかったと思うんだ」
「……そうだろうな」
あいつが苦しそうだったから、今葵はそんな顔をしてるんだろう? あいつも、葵にそうなって欲しかったわけじゃないんだけどな。それは、葵自身も解ってるだろう。
(でも俺は、あいつの心の中が100%解ってるわけじゃない)
そこは俺よりもきっと、兄の方がよくわかってるだろうけど。
「……多分、俺が同じ立場でもそうする」
「……そう?」
「ああ。でもきっと、俺はそこまでならないだろうな」
「え? それって……」
葵は好きだ。それは、誰にも渡したくないくらい、誰にも負けないくらいには。でも、それでもやっぱり、一線引いていたところがあるんだ。……どうしても。
「……俺は一応、これでも皇の息子だから」
「あきらくん……」
いざという時。傷付くのが嫌だったから。怖かったから。好きは好きでも、結局は諦めていたところがあった。きっとこれはもう、癖のようなものだ。
「それに俺は弟だし」
「……え」
「言っただろう? 同じ立場ならって」
「……えっと」
葵にしては珍しいな。勘のいい葵のことだから、それが誰のことを言っているのか。名前を伏せていても俺ならわかってると思って話しているんだとばかり。まあ、俺は既に兄だってことは日向から聞いてたけど。……頭が通常通り回ってない辺り、日向の心配も杞憂では無いってことか。
「だから、葵が婚約者だって知った時、ちょっと喜んだんだ。でも、正直には喜べなかった。……何も聞いてなかったから」
「うん。……振り回して、ごめんね」
「謝るな。なんだかんだで、みんなよりもちょっと余裕があったからな、俺は。それに、振り回される相手がお前なら、話は別だよ」
小さく笑いかけながら、そっと葵の肩に手を置く。
「編入してきた時からずっと、葵のことは目で追ってた。初めは母さんに雰囲気が似てたから」
「……あきらくん」
「でも、そう言って自分のことを守っていたのかもな。……俺はきっと、その頃から葵のことを好いていたんだろう」
「……そっか」