すべての花へそして君へ①
俯く葵の頭を、空いている手でそっと撫でる。少しだけ癖のある髪は、前も思ったがさらさらで。触れているだけで……気持ちがよかった。
「母さんのこと、父さんのこと、シン兄のこと、俺のこと。まだ気にしてるか?」
「……気にしないわけ、ない」
「そっか。気にするな……とは言えないな、それじゃあ」
俯く彼女が何を思っているのか、どんな表情をしているのかはわからない。でも、これだけは言っておこう。
「つらかった。苦しかった。寂しかった。……そんな気持ちだったことは、もちろんある。正直に話すと」
「……うん」
「でも俺は、会えてよかった。それは、父さんだってシン兄だって思ってる。母さんだって、もし思ってなかったら思わせる」
「はは……。強制……」
声に覇気がなくて。俯いている葵の顔が見たくて。顔を上げて欲しくて。……気付かれないようにそっと。ほんの一瞬、髪にキスを落とす。
(……何もしないって、言ったのにな)
これはあとで彼氏有力候補に怒られるかも知れないなと。やってしまったと、ほんの少しだけの後悔と。最後だからいいだろうと、開き直ってる自分がいた。
「……だから、葵もそう思ってくれてたら嬉しい」
「……うん。それももちろん、思ってるよ」
「そっか。それなら、……よかった」
それだけは、思っていて欲しかった。
こんなにもやさしい気持ちを、俺は葵に、教えてもらえたんだから。
「葵? 俺らのこと、助けてくれてありがとう」
ようやく上げてくれた彼女の顔は、くしゃっと笑っていた。
「どういたしまして……。かな……?」
でも、そんな顔は見たくなかったから、すぐにその小さな鼻を抓んでやった。これも、もしかしたら怒られるのかも知れないけどと。そんなことには気付かない振りをして。
「そんな顔はするな。三振しに来たのに、エラーで出塁になる」
「え? ……へへ。そっかー。ごめんごめん」
でもきっと、この顔は誰にでもなってしまうんだろう。彼女がみんなを思ってるからこその、表情なんだから。
そして、それを笑顔に戻せる奴は……たった一人だけ。