すべての花へそして君へ①

「ひっ、ひなた、くん!  あの……っ」


 自尊心なんかどうでもいい。羞恥心なんか、どうだっていい。そんなもの、彼に誤解されるくらいなら必要ない。
 意を決して、ヘタレの殻を破ろうとした時だった。


「ちょっとごめん」

「へっ――!?」


 急激に、視界の中の世界がガラリと変わった。


「ひなっ」

「じっとしてて」


 目の前は一気に真っ暗になった。やさしい香りと温かさに、包まれた。
 グッと腕を強く引かれた。しゃがんだまま。でも、衝撃はなかった。ふわっと、浮遊感がしただけ。


「……はあ」

「――!!!!」


 ものすごく不格好だけど。なかなかキツい体勢だったけど。


「……ごめん。もういいよ?」

「……う、ん」


 わたしが、彼に『抱き締められている』と。理解したのは、彼の吐息が耳に掛かった時。


「……? ……大丈夫?」

「……うん」


 まだ、このままがいいと。そう思ったのは、腰に回った腕が、すっと消えた時。


「え。……ほんとに大丈夫? 支えてたけど、やっぱキツかった?」

「ううん。 ……だいじょう、ぶ」


 離れたくないと。でも、心配かけたくないと。言い聞かせたのは、そうなんとか言葉を紡いだ時。


「……ねえ。本当に大丈」

「――じゃない」

「え?」


 言わないと。今、言わないと。


「……大丈夫じゃない」

「え」


 なんか、いろいろ爆発しそうだと思ったのは。


「大丈夫じゃ……ないっ」

「…………」


 気持ちに抗いながら、彼の胸をそっと、震える手で押し返した時。


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