すべての花へそして君へ①
もし。もしも、桜だったなら
「……? こんなの聞いても、何にも面白くないですよ?」
「ううん、面白いとかじゃなくて。……今のカオルくんがどうやってできたのかなって知りたいだけだよ」
「……やっぱり変な方ですね、あなた」
「よく言われる」
にひっと笑っている彼女は、ぼくにはとても眩しかった。こんなことを聞いて、一体どうしたいのだろう。……ほんと、不思議な方だ。
けれど、話したところでどうにもならないというのに。
「あなたとは別の意味で異常だったんですよ。変人。よくそう言われてました」
どうしてぼくは、話を聞いてもらいたいと思うのでしょう。コズエさんにも、そんなことは思わなかったのに。
(……彼女だから、でしょうか。やはり)
そんな空気を、言葉を、仕草を、表情を。目の前の彼女がしているから、でしょうね。
「……でも、人との関わりは面倒でした。だから捨てました。それだけです」
「……そっか」
それでも、友達になってくれたアイさんがレンくんが。自分にとってはかけがえのない存在だった。
だからぼくは、大切な人を守りたかったんです。だからぼくは、あなたに酷いことを、……してしまったんです。
「こんなぼくの相手を、まあ日下部の息子だからでしょうけど、相手をしてくれていたのは大人の方ばかりだったので」
それがたとえ大人たちの間での建前であっても。それでも安心していられたのは、年上だけだった。
「そっか。それでコズエ先生が『助けるわ!』ってかっこいいこと言っちゃったから、惚れちゃったんだね」
「そうなんですう~。あの時のコズエさんをあなたにもお見せしてあげたかったですよお」
「ははっ。ほんと! 見たかったなー」
年上だけ、だったはずなんですけどねぇ。にもかかわらず、どうしてぼくは今すごく安心しているんでしょう。……どうしてぼくは……。
「あなたはどちらに? どこかへ行かれる途中だったんじゃないですか?」
「おおそうだった! 五番バッターを捜してるんだよ!」
「え? よ、よくわかりませんけどお……」
彼女に話を聞いてもらっただけだというのに。……こんなにも今、胸の中があたたかいのだろう。
「好意にはきちんと、お答えしたいんだ」
「……あなたも、面倒臭そうな性格ですね」
「そう? でも、これがわたしだからね!」
「……! ……五番とかはわかりませんが」
自分も言ってきた。『これが自分だから』と。でも自信を持って言えなかった。言い聞かせてきたと言っていいだろう。
「アイさんはさっき、庭園を見てくると言ってこの建物にはいませんよ?」
「……! ありがとうカオルくん!」
そう言って彼女は走って行ってしまった。どうやらアイさんが五番バッターみたいだけど、ハッキリ言って意味はわからなかった。
「……きちんとお答え、してしまうんですね」
彼の気持ちは、小さな頃から知っていた。それこそ、彼女の想い人よりも長い間、想いを重ねてきたことを。
「……アイさん。頑張ってください」
泣いちゃう時は。その時は。……ぼくが一緒にいてあげます。