すべての花へそして君へ①
 ✿


「ふう~ん。そうなんだー。あおいさんはレズだったんだね?」

「いや、それはないわ、アイくん」

「え? でもルニが好きだったんでしょ?」

「だから、男の子なんじゃないかなって思ってたんだってば」

「あ。そっか。それはそれで面白かったのに」

「あ、あいくん……」


 そこは、外よりも温度が高くて、少しだけむっとした場所だった。でもそれに慣れてしまえば、花のいい香りのせいか、眠気を誘われそうだ。


「……今朝も言ったけどさ。やっぱりあおいさんしかいないなって思ったんだ」

「あいくん……」

「ずっと見てきた。長さだったら九条くんにも勝てるんだけどね」

「……ははっ。そうだね」


 いつも見てた。いつも……いつも。
 見ていたんだ。彼女の、知らないところで。


「あおいさん。今まで、本当にすみませんでした」

「え? ……アイくん」


 頭を下げるだけでは許されないようなことを、たくさんたくさんしてきた。誰かの生活を覗き見るだなんてそんなこと、許されるべきことなんかじゃない。


「……どうしてみんな、やさしいんですかね」


 誰も責めてなどくれない。責められる方がよっぽど楽なのに。つらくないのに。


「……それは。あまりにも酷ですよ」


 彼にも言った。あの時たくさん。許されてしまえと。やさしいあおいさんに……許されてしまえと。


「してはいけない罪を、どうして咎めてくれないのでしょう」

「……それは、したくてした罪ではないからでしょう?」

「だとしてもですっ! ……だとしても、したことに変わりはありません」


 だからどうか、裁いて欲しい。あなたにしかもう……頼めないんだ。


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