すべての花へそして君へ①
出てくる言葉は謝罪ばかりだった。だって、それ以外に何を言うことがある。
「はあ。……カナデ。俺は何回聞けばいいんだよ」
「……一生?」
「勘弁してくれ」
頭を抱えられてしまった。……でも、こればっかりはもう、しょうがない。
「カエデさん。俺、本当にあの頃ユズちゃんが好きだったんです」
「……知ってるよ」
まあそうだろう。俺は、カエデさんがユズちゃんの父親だってことは知らなかったけど、向こうには筒抜けだ。
「あの時、守ってあげられなくてすみませんでした。俺の組の奴らが、……っ、ほんと。すみません」
「(カナデはなんも悪くねーのにな。……悪いのは、父親のくせになんも知らなかった俺の方だ)」
ただ、カエデさんはタバコをスパスパ吸っていた。
何を考えているのかはわからない。でも、今までも何度謝ったって責めなかった彼が優しすぎることだけは、もう十分わかってた。
それから、何度も謝った。カエデさんはただ、タバコのスピードを速めていた。
「俺が強かったら……。っ……」
「……今日で、終わりだからな」
「え……?」
気が付いたら、いつの間にか最後の一本になっていた。
「今日っつっても今夜までだ。朝んなったらもうやめろ。……俺も、やめっから」
「カエデ、さん……?」
最後、何かを言ったみたいだけど、俺の耳には届かなかった。……けど。
「やめ……。られるかな」
そんなの、無理だ。それだけ最低なことを、俺はしたんだ。
「……そうしねーと、そうなってるお前を見て傷付く子がいるだろうが」
「かえでさん……」
彼女は何も悪くない。あの組にいる時点で、そういうことがあるかも知れないんだ。そうならないよう、強くならないといけなかったんだ。……っ、なのにっ!!
「俺は俺で責任を感じてる。……今日までって決めてんのに、お前に謝られたらまた自分を責めることになるだろうが」
「……っ! カエデさんが悪いことなんて――」
「いい加減にしろよ、カナデ」
「……!!!!」
今まで、凄まれたことなどなかった。だから、キツい言葉や視線、態度に一瞬怯んでしまったけれど。
「……いいえ。やめません」
心は曲げない。それが、ウチの誇りだ。
「……はあ。馬鹿。そんなん言われたら、父親失格じゃねーか」
「え……! っ、そんなつもりで言ったんじゃありませんっ!!!!」
自嘲する彼に、慌てて否定する。でもカエデさんは、ただ緩く首を振っていた。
「お前も、子どもを持てばわかるだろうよ。だから、……強くなれ。カナデ」
「……かえで、さん」
なんてかっこいいんだろうと思った。正直、男らしさはうちの父より上だろう。……いいや。父らしさ、だろうか。
(かっこいいな……)
カエデさんも。ユズちゃんも。……そして、アオイちゃんも。
俺に、なれるだろうか。絶対に大切なものを守れるほど、……強い人間に。