すべての花へそして君へ①
実は忍者だったりするかもね
「……え」
声がするまで、全然気が付かなかった。空を見上げていたからか。視線を下ろすと、いつの間にか目の前に、彼女が俺と同じようにちょこんと座っていたのだ。
「あおい、ちゃん……?」
「ほいっ! どうしたんだ? おしりが冷えちゃうぞ?」
それは君もでしょって。言いたかったけど、言えなかった。
「……」
言葉が出なかった。
だってもう、何もかもバレてたってことだ。カエデさんが、わざわざ言ったのかも知れないけど。それでも。
「……」
――傷つけた。そんなこと、したくなかったのに。
俺がただ、一人で悩んで、一人で責任を感じてただけなのに。
傷つけて……しまった。
「ねえカナデくんっ。教えてくれる?」
「あおい。ちゃん……?」
何を教えろと言うんだ。
もう、ここに来たってことは、わかってるんでしょ? わざわざ君を……傷付けたいわけないじゃないか。
「教えてくれないの? わたしに謝ってたんじゃなかったのかな?」
どうしてそんな意地悪を言うんだ。結果として君を傷つけるのに。……どうして。
「……っ……」
見ていられなかった。真っ暗なはずなのに、目の前の彼女が、眩しすぎて。
きっと、……綺麗だからだ。見た目だけじゃない、心までもが。なのに……、自分はどうだ。
あの場で彼女のことはきちんと許した。許すも何も、アオイちゃんが悪いことなんて、初めから一つもなかったんだ。だから、これはもう自分の問題だ。自分の……、問題なんだ。
「こ~ら! カナデくん! わたしがいない間にまたエロ本追加したんじゃないだろうな! ええ? どうなんだあ!」
「……いひゃいよ。あおいひゃん」
とか思ってても、こうやって彼女は自分から向かってくるんだ。帰って……。きた。
「……かなでくん」
たった十日だ。会えなかったのは。彼女にそっくりな人には会ってたけど……。でも。
「そ、そんなに強く引っ張ってないんだけどな……」
信じられない事実を聞いた。血の気が下がる思いだった。
彼女がどうして何も言わなかったのか、そんなことまで思い至るわけがない。……それでも彼女は、自ら消える道を選んだ。俺たちを、守ることを選んだんだ。
「……そんなに痛かったか。ごめん。ごめんね? かなでくん」
見られたくなくて、俯いた。そんな俺の頭を、彼女はただ、そのやさしい手で撫でていた。
彼女は今、どんな気持ちで俺の頭を撫でているんだろう。傷付いたはずなのに。……やっぱり彼女は強いと思う。かっこいいな。敵いっこない。
……っ。くやしい……。
もちろんユズちゃんやカエデさん、奥さんに謝罪をしたいのももちろんだ。……でも、彼女にも謝りたかったんだ。今、やさしく撫で続けてくれている彼女にも。
「……。っ……。くっそっ……」
「かなでくん……」
あの件は、彼女が失敗させたくて立てたんだ。友達を、家族を信じてくれと。願いを込めてたはずなんだ。なのに……。失敗って、なんだよ。やっちまった奴等は捕まった。それが失敗か? 違うだろ。
……っ、俺がっ! ユズちゃんを守れなかった。俺がっ!! 先生を守れなかったっ。……結局は君を苦しめたんじゃないか。最低だ……。
なんで俺はこんなにも。弱いんだ。