すべての花へそして君へ①

君のやさしさにはくすぐりを


「今は返事中、かな?」


 彼女の頬の熱が俺の手の平に移り終わる頃、ゆっくり腰を上げたらポキって骨が鳴った。それがおかしかったけど、隣の彼女は驚いてた。もちろん、俺の骨が鳴ったから驚いてるわけじゃない。


「……しんどいね。俺が言うのもなんだけど」

「……かなでくん」

「俺は、アオイちゃんが気遣ってくれたから、傷は浅いと思うよ。アオイちゃんよりは」


 やさしい彼女は、きっと、丁寧に返事をしてるんだろう。相手のことを。……相手のことだけを、考えたものを。


(俺は君にもう、線を引かれちゃったからね)


 ただ、彼女のことだから、そういうのは彼に吐き出せないんじゃないかなって思った。だから、ちょっと助けになったらいいって、思ったんだ。


「みんなに言い終わったら、絶対にヒナくんのところに行ってね」

「え? ど、どうして?」

「ヒナくんにたっぷり甘やかしてもらうといいよ。俺ができないのはちょっと残念だけどー」


 目をパチパチしたあと、彼女は小さく笑い出した。


「やっぱりカナデくんはやさしいっ。ほんと、……やさしいね」


 今は、その笑顔が少しキツかった。だって、彼の名前が出たから。理由はわかってても、やっぱり悔しいなー。


「あのね、聞いてくれますか。カナデくん」

「え? な、何を?」


 でも、彼女はどうやら何か話したいことがあるみたいだ。どうせ彼のことなんだろう。顔が楽しそうに笑ってるから。


「あのね、今日中にみんなへお返事をしないと、わたしお仕置きされちゃうんだよ!」

「え? きょ、今日中?」

「正確に言えば、昨日だね! だからもう、お仕置きは決定なの。まだまだいてくれるので」

「そ、それはそれは……」


 こんな風になっている彼女にお仕置きとか。俺はそんなことできな――


(……え)


 いいや、そうか。彼は、見越してた……のか。


「ねー。もう、こうなったら報告に行くまいかな? って思っちゃうよー」


 嬉しそうな彼女は、彼の意図してることがわかってるのかな? それは俺にはさっぱりだけど……。


(……ほんと、素直じゃないんだから)


 ま。それは前々から思ってたけど。
 彼女を泣かしたこと、俺はまだ怒ってる。好きだからって、酷い言い方はしちゃダメだ。


(これからも、そんなことするようなら……)


 俺がまた、教えてあげないといけないな。


< 274 / 422 >

この作品をシェア

pagetop