すべての花へそして君へ①
「カナデくん。ヒナタくんのこと、怒ってくれてありがとう」
「……アオイちゃんはさ、やっぱりエスパーとかもなの?」
「え? そんなわけないでしょ? ただね? きちんとお礼、したかったんだ」
俺のおかげで、彼が謝ってきてくれたんだと。俺がいなかったら、ずっと距離感に困って怖がってたままだったんだと。
「……そっか。それは……よかった」
――言わなきゃよかった。
なんてことは、もちろん思ってない。だって、泣いてる彼女を……見たくはないんだから。
「今度組にも遊びに行くね! ストレス発散しにみんな投げ飛ばさせて!」
「い、いや、それならアカネくんのところの方がいいと思うんだけど」
「え? だって罪悪感ないし!」
「そ、そうですか」
彼によくよく言っておこう。彼女にストレスが溜まらないようにしておけと。
「それじゃあ、この辺で大丈夫! 送ってくれてありがとね」
それから、会場の建物がわからなくなったらしい彼女を、俺も帰りがてら送ることにした。
「俺も帰るところだったから大丈夫だよ。……ちなみになんだけど、俺って何番目?」
「え? ……な、七?」
「……頑張って」
「ふふ。うん。ありがと」
彼女は、小さな笑顔とやさしい残り香をここに置いていった。次は誰に返事をして、彼女はつらくなるのだろうか。
「……かなくん」
「え? ……ユズ、ちゃん」
今は、誰にも会いたくなかったな。特に、君には。どんな顔したらいいか、……わからないから。
「ほれっ!」
「え?」
そう言うや否や、彼女は大きく手を広げた。……そういえば、もう夜遅いのに。どうして、彼女はここにいるんだろう。
「小さな胸でもよろしければ!!!!」
「ぶふっ!!??」
い、一体何を。じ、時間も時間なのに。
「ちょっとでも慰めになれたら嬉しいな」
「……っ、え。な、なんで」
なんで君は、そんなことを知っているんだ……?
「そんなのできないって思ってる? 申し訳ないって思ってる? ハッキリ言うと、この時をあたしは待ってたけどね! 性格悪いから言っちゃうけど!!」
「え。い、いや……」
本当に性格悪かったら多分、そんなこと言わないです。
「ここに付け込んで、かなくんに取り入ろうとするあたしは最低女だ! だから、かなくんがここであたしに泣きついたらラッキーって思ってるっ!」
「……ゆずちゃん」
「さあ! どうしますか!?」……と。今でも両手を広げて言っている彼女を見て、なんだかおかしくなった。
「……それじゃあ」
俺は、彼女にゆっくりと手を伸ばした。