すべての花へそして君へ①

「カナデくん。ヒナタくんのこと、怒ってくれてありがとう」

「……アオイちゃんはさ、やっぱりエスパーとかもなの?」

「え? そんなわけないでしょ? ただね? きちんとお礼、したかったんだ」


 俺のおかげで、彼が謝ってきてくれたんだと。俺がいなかったら、ずっと距離感に困って怖がってたままだったんだと。


「……そっか。それは……よかった」


 ――言わなきゃよかった。
 なんてことは、もちろん思ってない。だって、泣いてる彼女を……見たくはないんだから。


「今度組にも遊びに行くね! ストレス発散しにみんな投げ飛ばさせて!」

「い、いや、それならアカネくんのところの方がいいと思うんだけど」

「え? だって罪悪感ないし!」

「そ、そうですか」


 彼によくよく言っておこう。彼女にストレスが溜まらないようにしておけと。


「それじゃあ、この辺で大丈夫! 送ってくれてありがとね」


 それから、会場の建物がわからなくなったらしい彼女を、俺も帰りがてら送ることにした。


「俺も帰るところだったから大丈夫だよ。……ちなみになんだけど、俺って何番目?」

「え? ……な、七?」

「……頑張って」

「ふふ。うん。ありがと」


 彼女は、小さな笑顔とやさしい残り香をここに置いていった。次は誰に返事をして、彼女はつらくなるのだろうか。


「……かなくん」

「え? ……ユズ、ちゃん」


 今は、誰にも会いたくなかったな。特に、君には。どんな顔したらいいか、……わからないから。


「ほれっ!」

「え?」


 そう言うや否や、彼女は大きく手を広げた。……そういえば、もう夜遅いのに。どうして、彼女はここにいるんだろう。


「小さな胸でもよろしければ!!!!」

「ぶふっ!!??」


 い、一体何を。じ、時間も時間なのに。


「ちょっとでも慰めになれたら嬉しいな」

「……っ、え。な、なんで」


 なんで君は、そんなことを知っているんだ……? 


「そんなのできないって思ってる? 申し訳ないって思ってる? ハッキリ言うと、この時をあたしは待ってたけどね! 性格悪いから言っちゃうけど!!」

「え。い、いや……」


 本当に性格悪かったら多分、そんなこと言わないです。


「ここに付け込んで、かなくんに取り入ろうとするあたしは最低女だ! だから、かなくんがここであたしに泣きついたらラッキーって思ってるっ!」

「……ゆずちゃん」


「さあ! どうしますか!?」……と。今でも両手を広げて言っている彼女を見て、なんだかおかしくなった。


「……それじゃあ」


 俺は、彼女にゆっくりと手を伸ばした。


< 275 / 422 >

この作品をシェア

pagetop