すべての花へそして君へ①

「こちょこちょこちょ~」

「え!? ちょ、あははははー!!!!」


 くるりと彼女を半回転させて、俺は後ろから脇を思い切りくすぐった。


「こちょこちょ~」

「ぎゃあー!!!! あはは!! だ、だめだって!! あはは!!!!」


 くす、ぐった。彼女がやめろと言っても、何度も。


「こちょ……。こちょ……。っ」

「かなくん……」


 笑って欲しかったな。ただ、俺のことだけを考えて。


「……っ。胸は……。遠慮します」

「……そっか。それは残念だなあー」


 ただ肩を。背中を。ほんの少しだけ。額を置く分だけ、借りることにした。


(あー……。ほんと、最低)


 笑ってもらえなかったからって? 今目の前の彼女を使って笑わせて? そうやって上書きして? ……一体何になるっていうの。


「ごめんっ。俺はまだ。あおいちゃんが好きなんだっ」


 そう言いながら、彼女の背中を借りて? ……ほんと、最低だ。
 涙は辛うじて出て来なかった。きっとやさしい彼女の言葉のおかげだろう。だからまた好きになった。彼女への想いが……。膨らんでいくんだ。


「そっか。でもごめんなさい。あたしも、かなくんが好きなんだー」

「……ゆずちゃん」

「まだ、かなくんが好きなんだ。あの頃からずっと、かなくんが好きなんだ。かなくんだけが、あたしは好きなんだ」

「……ゆずちゃんっ」


 どうしてこうも、女の子は強いんだろう。どうして俺には。そんな強さはないんだろう。


「好きなら好きでいいじゃん。お互いさ? あたしはあおいちゃんも好きだもんっ! だからひっそり応援もしてる」


 そして、ほんの少しだけトーンを落として言うんだ。


「……でも、あの時も言った。ちょっとかなくんが振り向いて、あたしのことを見てくれただけで嬉しいから……って」


 アオイちゃんが好きな俺も好きだからと。だから、俺が前に進めるようにちゃんと見ててあげるからと。自分だけは、絶対見ていてあげるからと。


「進ませてもらったあたしが、……今度は進ませてあげるよ。いつでも」

「……ありがとう。ゆずちゃん」


 そんな彼女のやさしさに、ひとしずくだけ。瞼を閉じると零れていった。
 本当に心から思う。――彼女を好きでよかったと。


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