すべての花へそして君へ①
ずっとずっと。あなただけ。
「……かなくん」
それからしばらくして。待ち侘びた相手が彼女と歩いているのを見つけた。雰囲気からして、きっともう事後なのだろう。
彼女が去って行ってから、猫背になった寂しそうな背中へ、小さく声をかける。
「え? ……ユズ、ちゃん」
驚いてた。なんであたしがこんなところにいるのかと。まだ起きていたのかと。
だって、今日は眠れる気がしない。それはきっと、みんなそうだ。きさちゃんだって、部屋に入ってイチャついたりしてるかも知れないけど、きっと起きてる。あの子は、……そういう子だから。
「小さな胸でもよろしければ!!!!」
「ぶふっ!!??」
彼女には……まあ負けるけど。それでも、ほんの少しでいい。彼の慰めになれれば、それでよかった。
でも彼は、胸を借りるどころか、あたしの脇をくすぐってきた。
「こちょこちょこちょ~」
どうして苦手なことを知ってるのかと。思ったけれど、今は聞けるような状況じゃなかった。
ただ、彼はあたしをくすぐった。あたしはただ笑った。声を上げて。
「……っ。胸は……。遠慮します」
「……そっか。それは残念だなあー」
しばらくしたら、彼の苦しそうな声が聞こえた。彼はただ、あたしの肩に頭を置き、背中の服を少し掴んでいた。
(……慰めも、させてはくれないんだね)
こんな状態の彼を、放っておけるはずなんてない。でもあたしは、抱き締めてあげることも、撫でてあげることもできなかった。背中を肩を貸せ、ということは、そういうことだ。あたし自身に、慰め自体を求めてはいない。
……ただ、伝わってくるのは、それでも『ありがとう』という、彼のやさしさだけだった。
(あたしに、できることは……)
彼の、彼女を愛する気持ちへの慰めは必要ないと言われた。これは、自分の問題だからと。きっと彼は、長い間、そんな気持ちと一緒に時を刻むんだろう。
……そんな彼にあたしができることなんて、今はたった一つしかないじゃないか。