すべての花へそして君へ①

ずっとずっと。あなただけ。


「……かなくん」


 それからしばらくして。待ち侘びた相手が彼女と歩いているのを見つけた。雰囲気からして、きっともう事後なのだろう。
 彼女が去って行ってから、猫背になった寂しそうな背中へ、小さく声をかける。


「え? ……ユズ、ちゃん」


 驚いてた。なんであたしがこんなところにいるのかと。まだ起きていたのかと。
 だって、今日は眠れる気がしない。それはきっと、みんなそうだ。きさちゃんだって、部屋に入ってイチャついたりしてるかも知れないけど、きっと起きてる。あの子は、……そういう子だから。


「小さな胸でもよろしければ!!!!」

「ぶふっ!!??」


 彼女には……まあ負けるけど。それでも、ほんの少しでいい。彼の慰めになれれば、それでよかった。
 でも彼は、胸を借りるどころか、あたしの脇をくすぐってきた。


「こちょこちょこちょ~」


 どうして苦手なことを知ってるのかと。思ったけれど、今は聞けるような状況じゃなかった。
 ただ、彼はあたしをくすぐった。あたしはただ笑った。声を上げて。


「……っ。胸は……。遠慮します」

「……そっか。それは残念だなあー」


 しばらくしたら、彼の苦しそうな声が聞こえた。彼はただ、あたしの肩に頭を置き、背中の服を少し掴んでいた。


(……慰めも、させてはくれないんだね)


 こんな状態の彼を、放っておけるはずなんてない。でもあたしは、抱き締めてあげることも、撫でてあげることもできなかった。背中を肩を貸せ、ということは、そういうことだ。あたし自身に、慰め自体を求めてはいない。
 ……ただ、伝わってくるのは、それでも『ありがとう』という、彼のやさしさだけだった。


(あたしに、できることは……)


 彼の、彼女を愛する気持ちへの慰めは必要ないと言われた。これは、自分の問題だからと。きっと彼は、長い間、そんな気持ちと一緒に時を刻むんだろう。
 ……そんな彼にあたしができることなんて、今はたった一つしかないじゃないか。


< 283 / 422 >

この作品をシェア

pagetop