すべての花へそして君へ①

「そっか。でもごめんなさい。あたしも、かなくんが好きなんだー」

「……ゆずちゃん」


 伝えよう。ただひたすら。あなたへの愛を。


「まだ、かなくんが好きなんだ。あの頃からずっと、かなくんが好きなんだ。かなくんだけが、あたしは好きなんだ」


 ずっとずっと、好きだった。だから、ずっと後悔した。やさしい彼から……離れてしまったことを。
 やさしいんだ。本当に。かわいくてやさしくて。そんな彼に、あたしは恋い焦がれたんだから。


「好きなら好きでいいじゃん。お互いさ? あたしはあおいちゃんも好きだもんっ! だからひっそり応援もしてる」


 好きなのには変わりない。だからまさか、応援するなんてことはないと思ってたけど、流石に彼女の魅力には敵わない。あたしだって、あおいちゃん大好きだし!


「……でも、あの時も言った。ちょっとかなくんが振り向いて、あたしのことを見てくれただけで嬉しいから……って」


 あたしも、かなくんと一緒だ。無理だ。無理なんだ。
 ごめんね。あたしはどうやったって。あなたが好きなんだ。だから、振り向く時に気持ちがなくても全然いい。ただ、あなたが……笑っていられるなら。


「あたしは、あおいちゃんが好きなかなくんも好き。だから、かなくんが前に進めるように、あたしはちゃんと見ててあげる。あたしは、絶対見ててあげるから」


 だから言おう。あなたへの愛とともに、この言葉を。


「進ませてもらったあたしが、……今度は進ませてあげるよ。いつでも」


 あたしはちゃんと、前に進んだよ。それでもやっぱりね? 進んでも気持ちは変わらないんだ。だから今度は、あたしが手助けしてあげる。
 またかなくんが笑えるように。大好きな人が笑っていられるように。


(あたしは、……ちゃんと見てるからね。かなくん)


 小さく、お礼の声が聞こえた。こんなものに、お礼なんかいらない。だって、あたしが今度は返す番なんだから。
 心から思った。あなたを好きで、本当によかったと。

 しばらくしてかなくんが落ち着いたあと。部屋まで送ると言ってくれたけど、帰る気になれなくて遠慮した。申し訳なさそうに笑ってたけど、にい~っと笑って活を入れてあげた。


「かなくん! まだまだ諦めちゃダメだかんな!?」

「う、うん。頑張るよー……」


 彼の背中をドンと押し、去って行く彼に元気に手を振ってあげた。


「頑張れ! かなくん! ファイトだ! かなくん!」

「ゆ、ゆずちゃん? 夜遅いから、ちょっとボリューム落としてね……?」


 それでも、大きな声で応援してあげた。姿が遠くなっても、彼へ届くように。


「がんばれー!!!! がんばるんだぞかなくーん!!!!」

「あ、……ありがとー……」


 何度も何度も。彼の姿が、見えなくなってもずっと。大きな声を、出したまま……。
 ……どれくらいしたかな。もういいかな。……いい、かな。……っ。


< 284 / 422 >

この作品をシェア

pagetop