すべての花へそして君へ①
回し蹴りも奇跡かも知れない
「……わかっとったんなら、声くらいかけえや。あほ」
そんな振りさえ、あの子はせえへんかったのに。いや、あの子の中の人はせえへんかったのに。
……ずっと、見とったんやろか。どんな気持ち、やったんやろか。
「……悪かったなあ。回し蹴り、してしもて」
謝っとこうか。もう一回、あの子に。……もう、俺が好いた女はおらんさかい。
「……俺は、わからんかったな。……情けな」
そんなん、好きとちゃうやん。ほんま、……情けな。重ねとっただけやん。……葵ちゃんを。
俺と紫苑さんだけ別室に移された時はどうしたのかと思った。でも、画面の子が名前を出した途端、崩れ落ちた。
それから、手紙をもらった。……それで十分や。
会いたいって、思うとった。まさかこんな形でやなんて。……そんなの、有り得へん。
でも会えた。画面越し。それから、俺に宛ててくれた手紙。それだけで十分。
(俺も。……好きやったで)
今頃彼女はどうしとるんやろな。彼女は、見つかったんかな。葵ちゃんの本当のお父さんが、いっぱい調べてくれたらしいから、そっちの捜索もしてくれるって言っとったな。
(もう大丈夫や。あんたが幸せなら、……それでええんやから)
俺やって、大切なもんいっぱいできたんや。しゃあないから、あんたの大切な子らも、ちゃんと見とくわ。
(あんたが笑って逝けたんなら、……えかったわ)
見られとるんかー。せやったらもう、悪いことできんなあ。
「……また、会おな。俺がそっち行く時は声、ちゃんとかけてな」
あんだけしんどかった胸ん中が、すっかり落ち着いた。それでもやっぱり、今日は寝られそうになかったから、煙草でも吸いに、外に出ようかと思った。
「それじゃあ、この辺で大丈夫! 送ってくれてありがとね」
(あれは……、葵ちゃんとカナやん)
こんな遅くに。何しとるんや。