すべての花へそして君へ①

 そして軽く話したあと、彼女の方がこちらへと走ってきた。何があったんかはようわからんかったけど、俺は何故か、とっさに柱の陰へ隠れた。


「マサキさんっ」


 でも葵ちゃんは迷うことなく、俺のところへとやってきた。もう気持ちも整理できとったし、重ねて見ることはせんかったけど……。正直、重ねて見とったんやないんやなと思った。


「……バレとったか」


 この子自身に、ちょっと惹かれとったんやなと思うわ。もうおっさんやのに。まだ葵ちゃんなんか、ピチピチの女子高生やん。
 ……やめやめ。俺は紫苑さんとカナと組のもんがおれば十分なんや。


「あー、……葵ちゃん。今頃こんなん言うのもあれなんやけど」


 目の前の彼女はきょとん。どうせ言うたら笑われるんやろな。


「……回し蹴りしてもうて、悪かったなあ」


 そしたらめっちゃ目を見開きよった。……なんや、ちょっと恥ずかしいやんけ。


「……へへ。いいえ? またお手合わせお願いしますね?」

「それは勘弁やで」


 流石に、教会であんなん見せられた後やし。負ける喧嘩は端から買わん主義や。


「……お急ぎの用事がありますか?」

「ん? なんや。なんかあったんか」


 少し俯く彼女に、何かあったのかと思って、柱の陰からちらっとカナがおる方を覗いて見る。


「小さな胸でもよろしければ!!!!」

「ぶふっ!!??」


 ……なんや、ご褒美やん。あ。違うか。


「もう少し、ここにいてもらえませんか?」

「え? そりゃ、ええけど……」


 そう言い残して、葵ちゃんは申し訳なさそうに笑って去って行った。
 彼女が言うんだ。何かがあるんだろうと思った。そして、何が言いたかったのか、よくわかった。

 必死に声を出す彼女が。必死に手を振る彼女が。……崩れ落ちた。


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