すべての花へそして君へ①

すごい勢いで走るからでは?


 マサキさんと別れたあと、どこかの角を曲がるまで走った。建物自体からは出ていないから、取り敢えず野垂れ死にはしないだろう。
 小さく数回、息を整えてから走ってきた方を振り返る。もちろんそうしたところで、複雑に走ってきたのだからそこには誰もいないのだけれど。


(……何も、できない)


 ため息のような重い息を吐き、俯いていた視線を無理矢理上げる。わたしにはまだ、しなくちゃいけないことがあるから。

 そして上げた視線の先に見知った髪色が二つ。それを確認したわたしは、もう一度ふうとゆっくり息を整え、ターゲットをロックオン。猛スピードで駆け出し――


「チカくぅん! オウリくぅーん!」


 二人に手を振って駆け寄っていった。


 ――ばびゅんっ!!!!


 「ぅえ!?  な、なんでええ?!」


 けれど何故か二人は、わたしの姿を確認した途端、脱兎の如く逃げ出した。ただ笑顔で手を振ってるだけなのにっ!
 わたしたちはものすごい勢いで屋敷中を駆け回った。けどもう夜も遅いので、二人は大きな声を出さない。(えらーい!)

 そうこうしていると、二人がアイコンタクトをしてすぐ、二手に分かれてしまったではないか!

 ――さあ! どうする?!

 すぐにわたしも、二人が分かれた道に差し掛かる。けれどわたしは、一切悩まず片一方の道を突き進む。(悩みもしないとなると追われなかった方はちょっとかわいそうかも知れないけど、あとでちゃんと彼も追うからね!)


 さてさて。ここで問題です。
 追いかけたわたしが捕まえたのは、一体どっちでしょう!

 正解は…………もちろんこの人!


< 294 / 422 >

この作品をシェア

pagetop