すべての花へそして君へ①
4-15



 今でも鮮明に思い出す。

 何もかもが怖くなって、形振り構わず飛び出して。


 逃げて……逃げて。逃げて。

 ……逃げたところで、ほんの短い時間稼ぎだと思っていた。



 息を潜め、物音を立てず。

 その時間稼ぎが、無謀なことだとわかっていても、それを延ばす方法を必死に模索した。


 ……神経は、瞬く間にすり減っていった。

 きっと、母の死や父の廃人化が、知らない間にメンタルを壊していたんだと思う。



 だから、……本当に感謝してるんだ。


 まだ、逃亡から一日も経っていなかった。

 けど、限界だった。情けないことに。


 そんな、疲弊をしていたからか。

 小さな小さな彼女の救いの手を、迷うことなく取ってしまった。



 ……いいや。

 もしかしたらそれもあるかも知れないけれど。


 ただ、……一緒にいたいって思ったんだ。


 小さな小さな女の子と。

 ……俺の、初恋の子と。



 それは、今でも思ってる。

 今も、これからも、……ずっと。




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