すべての花へそして君へ①

ずっとずっと。言いたかった


 ぐび。ぐび。ぐび。


「え? あ、あおい?」


 そんな、ちょっと弱ってた俺の肩を押して突き放したかと思ったら、葵は一気にコーヒーを飲み始めた。


「……っ。ぷはっ! シント! お願いがあるんだけどっ!!」

「えっ。な、なに?」

「あのね? わたしが好きな飲み物を一緒に見つけて欲しいんだ!」

「……え」


 コップを持ってにこっと笑う彼女が、一体何を考えているのかなんて。


「あーあ。最後のお仕事って言ったのにー。またお仕事頼んじゃったよ。こりゃ参ったな~」

「あおい……」

「……理由はさ、何でもいいんだ。ほんと、何でもいいんだよ」


 かわいいと思ったら、今度はちょっと大人びた笑顔。そっとコップを置く横顔は、とても綺麗だった。


「……言ったじゃん。わたしは、シントを手放す気なんてないって。ントの想いを知っておいて、こんなこと言うわたしは、最低かも知れないけれど」

「……そんなことない」


 鼻の奥がツンとして、涙が出てきそうになる。
 最低? そんなわけないじゃないか。だって、それは葵のやさしさだ。俺が、離れたくなんてないんだから。俺がそんなことを、葵に言わせているようなもんなんだから。


「ほんとに……? わたし今、ほんとに最低なこと、言ってるのに?」

「……あおい?」


 そう思ってた。俺を思ってのことなんだと。やさしい葵が、そう言ってくれているんだと。


「……うん。俺は、ずっとお前に囚われてたい」

「……どえむ」


 でも、違ったみたいだ。彼女も、俺を離したくはないんだと。……そう、思ってくれていたんだと思うと。


「葵。やっぱり俺のお嫁さんに――」

「あのねシント。渡したいものあるの」


 酷い。そうやって被せてくるとか。せめて断ってよ。虚しいだけじゃん。


「……なに。渡したいものって」


 何をくれるんだろうと思ったら、「えへへ~」と彼女はとても楽しそうに笑っていた。
 首を傾げることひと呼吸。バッと何かを広げたかと思ったら、目の前が真っ黒に染まった。


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