すべての花へそして君へ①

「なのでっ。改めて言わせてくださいっ。しんとさんっ。わた、わたしと。お。おともだちに。ひっく。なってくださ――……っ!!!!」


 もう我慢なんてできなかった。上から降ってくるたくさんの涙ごと、葵を思い切り抱き締めた。


「家族でいいじゃん。だめなの?」

「……ひっく」

「なんで泣くの。……泣くなら言うなよ」

「……。いい。いい」

「え?」

「ぅぅっ。ず。ずっと。言いたくて」

「……あおい」

「でも。言えなくて。執事なんかにしてっ。ごめんなさい……っ」

「……。ばか」


 俺は、なれて幸せだったっていうのに。寧ろ、友達よりも近いじゃん。


(……でも、だからきっと一線は越えられなかったんだ)


 なんだかんだでそういうこと気にしてたから、持って行かれたのかなって思うけど。まあ、彼がどうなのかなんて知らないけどね。


(きっと、俺が言えないようなことも言ってたんだろうな……)


 俺は、たとえ助かるとしても、葵にとってキツい方法なんて選べないだろうし。……あーあ。支えてきたつもりだけど、完敗だな。


「友達はやだ」

「えっ」


 腕に抱き締める彼女が、ビクッと震える。……大丈夫。そういう意味で言ったんじゃないよ。


「親友……いや、大親友にしてよ。それか親戚。義兄。あとは、不倫相手? 浮気相手? いいね。響きがとってもいい」

「……し。しんと」


 スルッと、それからリボンを解く。ほんと、こんなのいつどうやって用意したのか。


「ねえ、よく巻けたね。最初何かと思ったし。チ〇ルチョコにリボン巻くとか、器用すぎでしょ」


 そう言いながら、どちらの手首に巻くんだったかと記憶を手繰り寄せる。


(……あ。そういえばさっき、巻いてくれた時……)


 そっと。細い柔腕を持ち上げて。そこへやさしく結んであげる。


「なるに決まってるでしょ? そんなの、俺だって葵との関係断ち切りたくないに決まってるじゃん」

「……うぅぅっ」


 そうか。だからさっき橙を巻いた時は何も言わなかったのか。今度こそ、ちゃんと正しい意味で使えるから。【友達として、大好きだ】と。


< 332 / 422 >

この作品をシェア

pagetop