すべての花へそして君へ①
「よっこらしょっと。ええー……、ごほんっ。皇信人殿」
そう言ったかと思ったらソファーの上に立ち上がり、賞状のようなものを取り出して広げ、それを読み上げ始めた。
「これを読んでいるということは、わたしが無事、運命から逃れられ、決められた道も、考えも変わったということです」
(……あ。おいっ)
それは、あの時の感謝状とは、全く別のものだった。
「そして今、目の前にはたくさんたくさんお世話になった、大好きな家族がいることでしょう」
俺はただ、そうして読み上げる彼女を呆然と見上げることしかできなくて。賞状で隠れた彼女が今、どんな表情をしているのかわからなくて。
「何もかもが終わり、そしてわたしにも未来を考えることができるようになったことと思います。……だから今、あなたに伝えます。最後のお仕事、本当に本当にお疲れ様でした!! 流石はわたしの最初で最後の、最高すぎる執事さんです!」
まるで、自分の日記のようなそれを聞くだけで……。ああ、終わったんだなと。嬉しさ反面寂しさも湧き上がる。
「わたしの未来が変わった今、きっと、あなたの未来も変わったのでしょう。そして、真面目なあなたは、もう次のことを考えているはずでしょう。……今までの七年間を埋めるために」
「……。あおい」
「わたしも、これを書いている時に決めていたことがあります。初めに渡した感謝状の時からです。何もかも終わったら。しようと……。やろうと。思っていたことが……。っ。ありますっ!!!!」
賞状を持つ手が、どんどん震え出した思ったら、バッと彼女は片手を離し――
(いつ。そんなの持ってたんだよっ……)
その手の平に何かを乗せ、それをこちらへと向けてきた。
「最高すぎる執事さんっ! 本当にお疲れ様でした!」
「あ。おい……?」
「今っ。この時をもって。最後の仕事の。任を解きます」
「……!!」
「いまっ。この時をもって。ひっく。……本当に。執事としてのっ。任を解きますっ!!」
「……あおいっ」
「今。この時をもってっ。あなたは。わたしの家族では。っ。なくなりましたっ」
「……」
その手に。あるものは……。