すべての花へそして君へ①
「ったく。あんの痴漢野郎どこいった――……っ!? え!? く、九条くんっ!?」
そんな風になってるオレのところに来たのは、どうやら仕事の方が一段落したらしいコズエ先生だった。
「アー。ドウモ。オ疲レ様デシタ」
「え。ど、どうしてそんなことになってるの。ていうか、そんな角っこで……。地縛霊か何かが居るのかと思ったじゃない」
「……視エルンデスカ」
「視えないわよ。たとえでしょ。わかりなさいよ」
「……すみません」
「いや、帰ってきても落ち込みよう半端ないわね……」
コズエ先生は深く眉間に皺を寄せながら、オレの近くにしゃがみ込んだ。
「く、九条くん。流石に心配だわ。どうしたの」
「……先生。やっぱりもう一回人生をやり直したいです」
「だから。それは無理だってこと、嫌というほどわかってるでしょうよ」
「はあああああ……」
「ど、どうしたのよ……」
流石に今の状態のオレを放っておいたら何をしでかすかわからないとでも思ったのか、何かを捜していたらしい先生は、ジャケットの中に手を突っ込みながら話を聞いてくれる体勢になった。流石に拳銃ぶっ放されるほど壊れませんって。
「先生。オレ変態なんです」
「へ?」
「全然気が付かなかったんです。マジ最低です。最低男だし変態だし欲求不満野郎だし。もう死にたい……」
「や、やめなさい。どうしてそんなことになったのよ……」
言いたくなかったけど言った。もうどうだっていい。オレがただ、あいつを欲しいがためにみんなに『振られちゃえよ』って遠回しというかもうストレートにお願いしたんだって。それを、今さっき言われてから不満が爆発してたことに気付いたんだって。
あー……。最低。ほんと最低。マジ最低。死にたい。ほんとやり直したい。
でも、そんな結構真剣に悩んでることを聞いたから言ったのに、先生は大爆笑しはじめた。
「あははははー!!!!」
「……なんで笑うんですか。人が悩んでるっていうのに」
ほんと失礼だ。オレにとっては大問題なのに。そんな、バカにしたように笑ってさ。オレバカだけどさ。
「いや。いやいや! ごめんごめん。何を深刻に悩んでるのかと思ったら……ははっ。まさかそんなことだったなんて……ぶっ」
「……ここから飛び降ります」
「やめなさい」
「はい……」
冗談なのにっ。めっちゃ怖かったし。先生の圧力半端ない……。
「だって、絶対みんなに嫌われましたもん。オレ最低です」
「……はあ。九条くん? みんながそんなことで嫌うなんてことがないことぐらい、あなたもわかっているんでしょう?」
「だから、そんなみんなのやさしさに甘えたオレが、一番許せないんです。最低ですよほんと」
「どこが最低なんだか……」