すべての花へそして君へ①
先生は頭を抱えてる。「あー」とか「うーん」とか唸ってる。
「……あのね? 九条くん。正直言って、それで治まってる方が不思議だと思うわ?」
「え? オレって、そんなに欲求不満だと思われてたんですか……」
「違うわよ! あなた、よく考えてもみなさい。思い出してみなさい。自分が今まで、どんなことを思ってきたのか。どれだけあなたがいろんなことに関して諦めていて、必死になって、そして、……我慢をしてきたのか」
「え?」
そう言ってきた先生の顔は、……本当に先生のようだった。
「あなたがそうやって今、あおいちゃんのことを求めてしまうのは、正直今までの反動だと思うけれど……。それでも、そうやって何かにしがみつく、何かを求める、貪欲なあなたを私は知らないから、今とっても新鮮よ? というよりはとっても嬉しいわ。ああ、やっと素直になってくれたんだって。きっとそれは、あなたのことをよく知っているみんなの方が、思っているはずよ?」
何それ。そうやってみんなして。なんでそんなに……甘いんだっ。
「まあ私は女だし、そこら辺のことはよくわからないけど、そんなことなんかせずに、さっさと自分のものにしたいって思うのは普通でしょ?」
「……いろいろあるんですよ。オレはまあ、……別にそうでもいいですけど」
「だから、そういうところよ」
「は? 意味がわかりません」
指をビシッと一本立てながら先生が話す言葉に。
「そうやって、どこまでも彼女を優先させるところ。彼女のことを思って行動できるところ。まあ、自分の欲望もあったのかも知れないけど、支えてあげたいって思うのは間違ってないでしょ?」
……オレは少し、居心地が悪くなった。
「ずーっと思ってたわ? ほんと、もうずーっと! イライラするぐらい! なんてこの子は彼女を大事にしてあげてるんだろう。なんでこの子はそれを隠そうとするんだろう。なんてこの子はどこまでも性格が悪いんだろうって」
「……最後の絶対今関係ない」
「いいえ? 大アリよ。どうして、どこまでもやさしすぎるあなた自身が、自分自身を傷つけるのだろうって」
「……オレは、やさしくなんて」
「そういうところに気付けないところも正直見てて苛つくわ。腹が立つわ。もうちょっと性格悪かったらいいのにと思うわ」
「え。さっきと違うし……」
「と・に・か・く! ……人間誰しも欲望なんてあるものよ? それをあなたは今まであなたの気付かないところで我慢してきたの。それが今、あおいちゃんが手に入ると思った。それは、あなたにとって一番欲しいもの。そうでしょ?」
「……あいつのこと、ものみたいに言わないでください」
「たとえの話でしょう? ……ほんと、こうやって今、彼女への愛がダダ漏れなのは、正直ものすごく嬉しいわ」
「え……。だ、ダダ漏れ……」
「大好きだったんでしょう? ずっとずっと。それはもう、異常なほど。それは決して悪いことではないの。……覚えておきなさい。ずっと今までいろんなことを我慢してきたあなたは今、もうハッキリ言うけど欲望だらけ。でもそれはとってもいいことよ? あなたが幸せそうで、……ほんとよかったわ」
「……お、れは」
我慢は、まあしてきた。あいつに関しては、特に。
でも、……幸せそう? こんな風に、なってるのに?
「だああもうっ! グジグジするな! 男の子でしょ!? 欲求不満とか最低男とか、そんなことで嫌いになるよりも、そうやって悩んでることの方が面倒臭がられて嫌いになるわよ!?」
「わかってますよ、それくらい。……でも、どうしろっていうんですか」
「別に? どうもしないでいいじゃない。まあでも、やっと人間らしくなった感じがするわね。欲望が抑えられない辺りは、まだまだお子様だけど」
「それは……まあ、自覚はあります」
「あらそうなの。いつも逸脱して大人みたいだったから、今は年相応に見えるし、男の子だなーって私は思うけど。まあ、男も女も好きな人がいれば欲望でおかしくなるものよ。あなたの場合は、彼女のことを大事にするんだろうから大丈夫だろうけど。……大切にしてあげなさい? その辺は、男の子が引っ張っていってあげないと。それに相手は、あのあおいちゃん、だしね?」
……わかってる。そんなことは、十分。
大事にしてあげたい。誰よりも。……何よりも。