すべての花へそして君へ①
「九条さあ~ん? お電話ですよお~?」
「はああん!?」
「ぼくに怒らないでくださいよおー」
「……誰」
「二宮さんからですう。九条さんが恐れている状況にはならないと思う……とのことですよ?」
「……アイ。降りて」
「もう暴れない?」
「取り敢えず落ち着いた」
それから、カオルからスマホを受け取ってオレは何事もなかったかのように壁際に立った。
「もしもし。替わったよ」
『何のお預けを食らってるのかな??』
「え」
めっちゃ恐ろしい状況が今、電話の向こうで起こっている気がする。
『というのは冗談で。おうりは今お目々を冷やしにトイレに行ってるよ』
「……そっか」
『嬉しかったって。泣いてた』
「え?」
『ひなクンが、怒らなかったからって。言いたくないこと言っちゃったのに、酷いこと言ったのにって』
「……全然。そんなことないのに。だって、そう思うことって普通じゃん」
『ひなクンもね?』
「え??」
『選出のこと。おれは欲求不満って言ったけど、あおいチャンのためを思ってしたことっていうのは、ちゃんとわかってるから』
「その根本が欲求不満なんでしょ?」
『人間誰しも欲求ってあるでしょ? おれが言いたいのは、それについての謝罪はもういらないからねってこと』
「……アカネ」
『それじゃ。おれもあおいチャンにちゅーしてもらいに行ってくるねー』
「アカネだと危機感そんなにないわ」
『むうー。それはそれで悲しいぞ!』
「ははっ。じゃあ。ごめ、……ありがとね。アカネ」
『うんっ。それじゃあおやすみ、ひなクンっ』
「どちらへ~?」
「コズエ先生のとこ」
それから、電話を終えたオレは、一応謝罪も済んだことだしと、彼女を捜しに行こうとした。
「……そうですか」
てっきりついてくるものだとばかり思ったけど、そう呟いたカオルは、スマホを触り始める。
「……? どうしたの、カオル」
どこかつらそうな様子は、明らかに、髪を染めてくれた時よりもおかしかった。一体何があったんだろう……って思ったけど。
「あ。九条くん。コズエさんに『お疲れ様でした』って言っておいてくれる?」
「オレの分も」
「……うん。わかった。それじゃ」
カオルのことは二人に任せることにして、オレはレンの部屋を退出した。