すべての花へそして君へ①
そんな新事実あってたまるか
『もう。……絶対泣かせないから』
『ひなっ』
『さっきのさ。ちょっと訂正ね』
それは、【困らせたくも泣かせたくもない】のことだろう。
『これから、どんどん困らせてあげる』
『……。えっ』
『あと、やっぱりあんま泣かせたくはないんだよなー』
『……えっと?』
『でも、やっぱり泣いてるのもいいよね』
『え』
やっぱあれですね。あなた、生粋のサディストですね。
『オレの前でだけね』
『……え?』
『オレは結局、取り繕った笑顔を壊すことができなかったから』
『……。ひなたくん』
笑っているようで、心から全然笑えていない。そんな表情を顔に貼り付けていたあの頃。ただそれを壊そうと、彼はわたしを本気で泣かせに来たっけ。
『泣くのはオレの前だけ。オレが、思う存分泣かしてあげる』
『……。ひなたくんも』
『オレ? ……じゃあ、その時は胸でも借りるよ』
『うんっ』
『……ほんとに借りてやる』
『ん……?』
『絶対借りてやるって言ったの』
『……? ……うん。どーぞ?』
そう言ったら、めちゃくちゃ大きなため息をつかれた。多分、今までで一番大きいと思う。
『……どうなって知んねーぞ』
『……? なに?』
『いっぱい泣いてやるって言ったの』
『えっ! な、泣かせないよ!』
『ははっ。……うん。頼りにしてる』
そっと額から離れていったヒナタくんの顔は、街灯の明かりで影になっていたけれど……。……それでも。
『ひなたくんっ』
『ん?』
それでもハッキリと見えた、わたしの大好きな、彼の笑顔を。
『……ん?』
『わたしも』
この、長くて羨ましいくらい綺麗な指先と、骨張った大きくて温かい手を。
“なんだか、好きって言われてるみたいだった”
『わたしも。……一緒だよ』
『……! ……うん。オレ、も』
『へへ』
わたしはこれから、ずっと大事にしていくんだ。