すべての花へそして君へ①

『……、もう無理』

『うえ!? ひ、ひなたくんっ!?』


 まるで、一気に疲労が押し寄せてきたかのように、何故かわたしの方へと倒れ込んできた彼。普段なら、全然それでもビクともしないはずだけど、ちょっと蹌踉けてしまった。どうやらすっかり、気が緩んでしまっていたらしい。
 せっかく頼りにしてくれていたのに! ご主人様に合わせる顔がな――


「うわ……。見てこれ。通知300超えてるんだけど。心霊現象みたいでウケるね」


 ……合わなかったわ。そもそも彼の顔、今わたしの真横にあるんだったわ。見えないわ。だってほっぺ、くっついてるんだもん。


「もうっ。ヒナタくん元気じゃん」

「ん? 誰も元気がないって言ってないけど」

「じゃあ歩く?」

「無理。ヤダ。ここがいい」


 このやりとりも何回したか。そう言うと絶対ムギュッて抱きついてきて、首のとこに顔を埋めてくるんだから。
 ……なんですかそれ。新手の技か何かですか。かわいさアピールかこの野郎。絶対わたしの心臓ぶっ壊そうとしてるでしょそうでしょそうって言っ――


「足止まってる」

「ヘイ」


 ちなみに、彼のせいで最初に踏み出した足は、前じゃなくて後ろでした。『さ~んぽすすんで♪』もなく、さっそく一歩下がりました。

 先行きいろいろ不安ではあるけれど、これはこれでわたしたちらしいっちゃらしいかなって思う、今日この頃。というか、今までいろいろ苦労していた分、少々のことじゃ倒れないから。……いやまあ、なんでヒナタくんがものすごくお疲れなのかはよくわかんないけど。

 そんなこんなありまして。そんな理由がありまして。わたしは現在、大好きなヒナタくんを運ん……引き摺っております。
 ご飯って大事だね。普段の力の何百分の一ぐらいしか出ないわ。(※わたしの場合)身を以てご飯の大事さと、こりゃ今から食べるご飯は美味しくいただけるなと感じた次第です。


「気付いたことがあるんだけど」


 やっとこのおかしな状況に気付いてくれたかと。頭の片隅ではちらりと思ったけど、全然期待はしていない。


「前から歩いてくる人たちがさ」

「うん」

「はじめは、温かい目か『リア充なんて』的な目で見てくるんだけど」

「うん?」

「横を歩く辺りから、オレのことを蔑んだ目で見てくるんだよね」


 ――そりゃそうだろうよ。ほら、期待しないでおいて正解。
 ちなみに後ろから歩いてきた人たちは、ずっとあなたのこと蔑んだ目で見てたからね? ご存じでしょうけど。


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