すべての花へそして君へ①
「誰か一人『具合でも悪いんですか?』的な感じで声かけてくるかと思ったんだけどなー」
「元気にスマホ触ってるんだから、誰もそうとは思わないでしょ」
「じゃあ、誰か一人は『お嬢さん力持ちですね』くらい言ってもいいと思わない?」
「ヒナタくん軽いから。わたし力持ちとは言えないよ」
「……オレの立場が……」
「何か言った?」
「あおいのお腹の虫じゃない?」
「あ。聞こえた? 恥ずかしいな」
「あ。お腹の音だったんだ。今地震があったのかと思って緊急速報待ってたのに」
――何がしたいんだこの人は。
(まあでも、気を許してくれてるんだろうと思うけど……)
そのままでいいと言ったのはわたしだし。こうやって今まで頑張ってくれていた分、頼ってくれるのはとっても嬉しい。
いや、わかってる。流石に今の現状がおかしいってことくらい。そこまでわたし、頭の中お花畑じゃないので。
「ここ信号渡る」
「はーい。了か――」
「嘘」
「いやヒナタくん。どこに行こうとしたんだどこへ……」
「オレんち」
「それはまた今度」
「ケチ」
どうやらよっぽど父に会いたくないみたいだ。
お父さん、それくらいで怒らないとは思うんだけど……まあ、ネチネチ言っては来そう。でもそれ、単にヒナタくんに絡みたいだけだから絶対。ヒナタくんもわかってるだろうから、この下りは冗談なんだろうけど。
「思ったこと言ってもいい?」
さっきと同じパターンだな。
思ったこと……なんだろ。ここでヒナタくんが言うとしたら……。
『背が小っさいからそろそろ腕痛い』
――わ。言いそう。絶対これだ。自信がある。
今回彼はそう言うだろうと思い、頭の片隅で突っ込みを考えておくにした。
「……なあに?」
よし来い! 被り気味で、『お腹が空いてるからね』って言ってやるんだから。(※意味不明)
そう返事をすると、ヒナタくんはスマホを触るのをやめて、そっと抱き締めてきた。そして首元でひとつ、小さく息を吐き声を出す。
「お――「お腹空いたね!!!!」……は?」
おっと。完全に被りすぎたぞ。しかも若干間違えたぞ。