すべての花へそして君へ①

「誰か一人『具合でも悪いんですか?』的な感じで声かけてくるかと思ったんだけどなー」

「元気にスマホ触ってるんだから、誰もそうとは思わないでしょ」

「じゃあ、誰か一人は『お嬢さん力持ちですね』くらい言ってもいいと思わない?」

「ヒナタくん軽いから。わたし力持ちとは言えないよ」

「……オレの立場が……」

「何か言った?」

「あおいのお腹の虫じゃない?」

「あ。聞こえた? 恥ずかしいな」

「あ。お腹の音だったんだ。今地震があったのかと思って緊急速報待ってたのに」


 ――何がしたいんだこの人は。


(まあでも、気を許してくれてるんだろうと思うけど……)


 そのままでいいと言ったのはわたしだし。こうやって今まで頑張ってくれていた分、頼ってくれるのはとっても嬉しい。
 いや、わかってる。流石に今の現状がおかしいってことくらい。そこまでわたし、頭の中お花畑じゃないので。


「ここ信号渡る」

「はーい。了か――」

「嘘」

「いやヒナタくん。どこに行こうとしたんだどこへ……」

「オレんち」

「それはまた今度」

「ケチ」


 どうやらよっぽど父に会いたくないみたいだ。
 お父さん、それくらいで怒らないとは思うんだけど……まあ、ネチネチ言っては来そう。でもそれ、単にヒナタくんに絡みたいだけだから絶対。ヒナタくんもわかってるだろうから、この下りは冗談なんだろうけど。


「思ったこと言ってもいい?」


 さっきと同じパターンだな。
 思ったこと……なんだろ。ここでヒナタくんが言うとしたら……。


『背が小っさいからそろそろ腕痛い』


 ――わ。言いそう。絶対これだ。自信がある。
 今回彼はそう言うだろうと思い、頭の片隅で突っ込みを考えておくにした。


「……なあに?」


 よし来い! 被り気味で、『お腹が空いてるからね』って言ってやるんだから。(※意味不明)
 そう返事をすると、ヒナタくんはスマホを触るのをやめて、そっと抱き締めてきた。そして首元でひとつ、小さく息を吐き声を出す。


「お――「お腹空いたね!!!!」……は?」


 おっと。完全に被りすぎたぞ。しかも若干間違えたぞ。


< 50 / 422 >

この作品をシェア

pagetop