すべての花へそして君へ①

「……なに」

「ごめん。今一番強い欲求が口から出てきた」

「……まあわからないでもないけど」

「どうぞ。続きを」


 わかってた。突っ込みを考えてる時点でおかしいって、わかってた。
 だからそんな、じっと見てこないでください。見えてないけど、なんとなく雰囲気でわかります。


「……ただオレはあおいに、女扱いなんてしてないけどって言いたかっただけ」

「……え。まさかこれは男扱――」

「違う」


 キレのある突っ込みありがとう。


「ただこれは、オレがしたいように、やりたいようにしてるだけ。でもそれは『女扱い』じゃなくて『彼女扱い』って言うから間違い」


 それだけ、と。本当にそれだけ言って、彼は再びわたしのほっぺへと帰ってきた。


「……? あおい?」


 様子を窺ってるような声をかけられるけれど……。今、衝撃的なことを知って、驚きのあまり声が出ない。


「……? どうしたの」


 そして、完全に足が止まったわたしを、流石に心配した彼はやっとこさ自力で立ち上がった。けれど、そんなことがどうでもいいくらいには、開いた口が塞がらない。


「よ、世の中の彼女さんはみんな、彼氏さんを引き摺って歩いてるんですね……」

「んなわけないよね」

「え」


 え。違うの? まさかの新事実を聞かされて、今めちゃくちゃ驚いてたのに。


「そもそもオレ、女の子扱いなんて知らないし」

「え」

「女子にそんな扱いしたことないし、キサなんか女として扱ったことないし」

「……それは如何なものか」


 前方を指差し、『発進せよ』という通達が来たので渋々発車。またさっきと同じく腕を掛けていたけれど、ほっぺに彼の熱も、胸の前にスマホの画面もなかった。


「……言ったじゃん」


『誰でもなわけないでしょ。あんた限定』


 その代わりに、はあと首に吐息がかかる。たったそれだけで、わたしの心臓を暴走させるには十分だった。
 やっぱり心臓さんに、残業手当を準備しておかないといけないかも知れない。でも、その給付が終わることは……ないかも知れないけど。それはさておき。

 言葉が足りなさすぎるのも考え物だというのに、ガチッと肩に腕を回し、顔は完全に首に埋めにきていて。おかげで髪が当たってくすぐったいというのに、当の本人はこれ以上話すつもりがないらしい。……ほんと。困ったものだ。それもさておき。


(ほんと、困ったものだ……)


 彼の隠した言葉が、それかどうかもわからないのに。全然、確かな証拠なんてどこにもないのに。


「わたし、妄想だけでいつか鼻血出すかも知れない……」

「え」


 勝手に一人でそうなんじゃないかと決めつけた挙げ句、一人で心臓さん暴走させて。やっぱりわたしの頭の中、相当の花畑だったや。


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