すべての花へそして君へ①
再来した悪魔さんはタチ悪い
耳に入ってくるのは、人や車が行き交う雑踏の音。ゆっくりと俯いた視界に入り込むのは、通り過ぎていく車のライト。だぼだぼの袖で見えないけれど、確かに繋がっている彼のぬくもり。……それだけ。たった、それだけの世界が、どうしてこうも心細いのだろう。ちゃんと彼と触れ合っているのに、孤独感を抱いてしまうのは、どうしてなんだろう。
……それも、全部全部。
「……あのさ」
浮かれていたわたしが、いけなかったんだけど。
「思ったこと、言ってもいい?」
そんなことを思っていたのも、きっと一瞬。わたしにとっては、彼がこの沈黙を破ってくれるまで、ものすごく時間があったように感じたけれど。でも、そんなのもどうでもよくなった。
「さっきまでさ、蔑んでた目で歩く人たちみんなオレのこと見てたんだけどさ」
雑踏の音。聞こえていたのは不規則で、それでいて汚くて。でも、彼の音は綺麗で澄んでいて。……それでいて。
「『うっわ。あの子女の子に振られたっぽいよ? かわいそー』的な感じで見られてるんだけど。どうしてくれるの」
ちょっとズレた、おバカな音だったから。
「ふっ、振ったわけじゃないよ!!!!」
「わかってるよ」
「えっ」
「ただ、端から見たらそう見えるって言っただけ」
……ちゃんと、伝わってた。
「こら。オレが言えるような立場じゃないけど、言葉が足りてないでしょ」
……流石。わたし以上に、わたしのことを知っているだけある。