すべての花へそして君へ①

「……でも、彼女扱いか」

「……? なに?」

「じゃあ、これもそう?」


 指先で抓むのは、だぼだぼのコート。見た目は不格好だけど……でも、不器用さんなりにサラッとこういうことするのは、すごくかっこよかった。


「それは……じゃあ、そういうことで」


 あれ? てっきりそうだと思ったから、言い淀みながらも普通に返ってくると思ったんだけど……。


「照れたの?」

「……いや。照れてはないけど」

「ないけど?」

「そういう扱いをしてないわけじゃないけど、……ちょっと私情が入ってる」


 ……私情? 全然予想してなかったから驚いた。でもハッキリ言ってきたから、嘘ではないんだろう。
 ……なんだろう私情。気にはなるけど、回っている腕の力が結構強いから、これは『聞いてこないで』の合図だろう。
 ちょっと残念だけど、聞かないでおいてあげよう。かわいいから。……でも。


「……でも、なれないんだ。わたしは」

「ん……? ……どうしたの」


 ゆっくりと立ち止まり、彼の腕や頭を軽く叩く。様子が少しおかしいわたしに、ヒナタくんは自力で立ち、腕の力をそっと緩めた。


「……ごめんね。受け取れないんだ」

「……なに。どうしたの」


 そのまま腕を解き、彼からほんの少しだけ距離を取る。
 ふう……と小さく息を吐いて。真っ直ぐ、大好きな彼を見上げる。


「わたし、……ヒナタくんが好きだよ」


 手だけはしっかり繋いで。離れないように、しっかりと絡めて。『わたしも一緒』の意味を言葉にして。


「……いきなり、どうしたんだってば」


 少し動揺してるヒナタくんに、今までわたしは失礼なことをしてしまっていた。こうしてまた、みんなと居られることが嬉しかったからだ。きっと、想いが通じ合ったからだ。

 ――自分だけ、浮かれていたからだ。


「ヒナタくん、わたし……」


 間違って欲しくはなくて。握る手に目一杯の想いを込めて。


「……わたし……」


 自分一人だけいい思いをして。
 自分一人だけ、幸せに浸っていて。


「わたし、ヒナタくんの彼女に、なれません」


 そんなの、ヒナタくんの隣に立つ資格なんてない。


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