すべての花へそして君へ①

禁煙しないと帰宅不可能だよ

🏵

(あー……タバコ吸いてー……)


 出迎えに出て、かれこれもう一時間。ある程度予想して出たら、案の定ほぼ全員帰ってきた。


『楓。特大チョコケーキの注文は準備できたか』

『んなもん端から注文してねーわ』

『職務放棄だ。減俸だ』

『あなた様のことを考えてのことですー。文句は受け付けませんし減俸するなら今注文してるデザートも取り下げるぞ』

『……せっかく葵のために準備しようと思ったのに』

『今準備してるので十分だわ。普通にケーキ作ってんだから文句言うな』

『記念するべき日なのに、普通のケーキじゃダメに決まってるだろ』

『記念なんだから普通にケーキ食やいいだろ』

『楓!! アキの言うことの方が正しい!!』

『とんだブラコンだな、お前……』

『ケーキだけじゃ足りない! 記念すべき日にはクラッカーが必要でしょ!? 買ってきて!!!!』

『お前、どんだけアオイちゃん好きなんだよ。好きならお前が買ってこい』

『わかった! アキ行くよ!!!!』

『いやだああああぁぁ――……』


 まあ、一応変装道具は持たせてるから、あの調子のバカなあいつを『皇信人』だとわかる人間は、まずいないだろう。
 これからはちっと、……大変になりそうか。


『あ! お父さん!』

『……なんだ』

『えー。なんで執事じゃないのー』

『俺の気持ちもわかってくれ』

『早く禁煙しないと、本当にお母さん家に入れてくれないよ?』

『……俺の気持ち、わかってくれよ』

『お父さんが嫌いなわけじゃないけど、今回はお母さんの味方』

『はあ……。……?』


 娘のユズとそんな話をしている横から猛烈な視線を感じていたが、それには手を振って『わかったわかった』と言っておいた。


『ところでユズ、アオイちゃんは?』

『え! まだ帰ってきてないの?』

『え』


 一応使用人たちに確認を取ってはみるものの、アオイちゃんらしき人は見てないとしか返ってこなかった。


『先に帰ってきてたのか』

『そうなんですけど、まあイチャこいてなかったらすぐ帰ってきますよ』

『え』


 月雪グループ。今はもうそう言えないが、そこの一人息子であるオレンジ色の頭の少年から、意味深な返答が。


『……ま、まあ俺は迷子になっちゃいけねーから、ここで待機しとくから』


 二人を除いたメンバーを、先に屋敷の中へと入れておいた。


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